ごみ処理資源で迷惑施設から世界注目のGX拠点へ!― 脱炭素と農業融合の佐賀市「グリーンアグリバレー」の挑戦

2026年5月28日

佐賀市清掃工場 二酸化炭素分離回収設備
うち「CCUプラント」は右手奥の高層建設物
(バイオサーキュラーエコノミー協議会提供)

佐賀市の清掃工場が今、世界中から熱い視線を集めている。かつて「迷惑施設」と見なされがちだったごみ焼却施設に二酸化炭素を回収して利活用するための CCU(シーシーユー)プラントを建設し、回収したCO₂ を農業やバイオ産業に活用する前代未聞のプロジェクトが進行中だ。

ここで回収されるCO₂ は純度 99.5 %以上を誇り、なんと炭酸水として飲めるほどの高品質。2024 年には、同市は清掃工場由来の CO₂ として世界初となる「ISCC(アイエスシーシー) PLUS(プラス) 認証(マスバランス方式)」を取得し、このCO₂ が国際的にも「サステナブルCO₂」であることが証明された。

この取り組みは CCU(Carbon dioxide Capture and Utilization:二酸化炭素の分離回収による利活用)事業としてすでに大きな実を結んでいる。このCO₂ を利活用する企業が清掃工場周辺に集積し、花王はハーブを栽培。そのエキスを使った高級化粧品が人気美容誌で部門1位を獲得した。また、熊谷組は藻類培養とアクアポニックスを掛け合わせた新しいシステムの実証実験を行っている。アクアポニックスで養殖されたトラウトサーモンは商業施設やふるさと納税で大反響を呼んだ。今や、清掃工場周辺への直接投資額は 累計 70 億円を超え、佐賀市は今後累計 200 億円規模のさらなる投資誘致を見据える。

脱炭素と地域経済の好循環はいかにして実現したのか。坂井英隆市長と担当職員に、その軌跡と未来への展望についてオンラインで伺った。

左:佐賀市環境部GX推進課 政策推進室主査 古賀 亮一氏
中央:佐賀市長 坂井 英隆氏
右:佐賀市環境部GX推進課 副課長兼政策推進室長 前田 修二氏

迷惑施設から「価値を生む施設」への道のり

――現在の清掃工場は、2 度の市町村合併を経て、かつて 4 か所に分散していた清掃工場のごみ処理を一手に担っています。ですが、統合の完了までには 7 年もの歳月を要しました。反対の声もあるなか、どのようにして困難を乗り越え、市民の信頼を築いてこられたのでしょうか。また、清掃工場における CCU事業という先進的な発想は、どのような背景から生まれたのでしょうか

坂井市長 清掃工場は市民生活に欠かせない施設ですが、近隣にお住まいの方々からは、当初やはり「迷惑施設」として受け止められていたと聞いています。そうした逆風の中、前市長や当時の職員たちが一軒一軒を訪ね歩き、地域住民の皆さまの理解を得るため、地道な努力を重ねてきました。その真摯な積み重ねがあったからこそ、かつて敬遠された施設は今、地域に歓迎される存在へと生まれ変わってきています。

佐賀市長 坂井 英隆氏

現在も地元との関係を大切にし、定期的に協議会を開いて丁寧な説明と報告を続けています。その土台の上で、私たちは清掃工場を単なるごみ処理場から「価値を生み出す施設」へと進化させる方針を掲げ、企業誘致や地域拠点としての機能整備を進めてきました。 その鍵となるのが CCU事業です。当施設で回収されるCO₂ は純度 99.5 %以上という、炭酸水にすればそのまま飲めるほどの極めて高い品質を誇ります。この良質なCO₂ を、バイオ産業や農業の「資源」として活用する。この逆転の発想が、現在の取り組みの原点です。

CCU事業の社会実装ーバイオ・農業との融合がもたらす成果

――進出企業の目覚ましい成果も続々と上がっていますが、なぜそうした農業に関係した事業を進めることになったのでしょうか。

坂井市長 実証実験を進める過程で、清掃工場が「広大な農地」の真ん中にあるという立地特性に改めて着目しました。地域に喜ばれ、かつ資源を最大限に活かせる道を模索した結果、農業やバイオ分野との融合に大きな可能性を見出しました。最初に関心を持ってくださったのが、藻類培養事業者のアルビータさんです。清掃工場由来のCO₂ を使った藻類培養は世界初の試みでした。私たちが積極的に情報発信を行ったところ、国内外から多くの視察や取材を目的とした方々に訪れてきていただきました。その中でJAさんや佐電工さんが相次いで進出、先進的な農業を展開されています。

(佐賀市提供)

特筆すべきは 2024 年の動向です。まず花王さんが進出し、同社独自の「スマートガーデン」でCO₂ を活用し、ローマカミツレやローズマリーといったハーブ栽培を開始しました。そのエキスを配合したブランド「est」の化粧品は、小学館の美容誌『美的』(2025 年 2 月号)「美容賢者が選ぶ 2024 年年間ベストコスメ」特集のスキンケア部門化粧水編で 1 位を受賞しました。さらに、集英社の人気美容誌『MAQUIA』(2025 年 1 月号)「MAQUIAベストコスメ 2024 下半期」特集のスキンケアライン部門でも 1 位に輝くなど、環境価値と品質の両面で市場からも高く評価されています。

佐賀市清掃工場周辺の進出企業の取り組み内容(2026年5月現在) (佐賀市提供の資料による)

同じく 2024 年には熊谷組さんも進出され、藻類の培養と「アクアポニックス(魚の養殖と水耕栽培を組み合わせた循環型農業)」を掛け合わせる画期的な取組を目指した実証実験がスタートしました。アクアポニックスではトラウトサーモンを養殖し、その排泄物を含む水を濾過してミントを栽培、浄化された水を再び生けすに戻すという完全循環型のモデルが実装されています。 ここで育ったトラウトサーモンは、2025 年 5 月から大型商業施設での試験販売が実現し、訪れた方々から好評でした。同年 7 月からは、佐賀市のふるさと納税返礼品として約 500 尾を加工商品(切り身)で提供開始し、こちらも大変好評でした。

さらに今年度は、大規模農園の橋本農園さんが進出しました。オランダ式の最先端の高度施設園芸設備システムにより、佐賀県平均の「約 5 倍」の単位収量を目指してミニトマトが栽培されており、今年度には清掃工場からのCO₂ を、そして来年度にはごみ焼却で生じた廃熱を供給することで、環境と経済を両立させた事業の実施を目指しています。

こうした目覚ましい成果を受け、2024 年 11 月、私たちは清掃工場周辺を脱炭素農業の一大拠点とする「グリーンアグリバレー計画」を策定しました。これは清掃工場周辺を脱炭素農業の拠点とし、清掃工場の資源を有効活用していくための計画です。地域との共生や持続的な事業展開が見込めるかといった観点をふまえながら、関心を持つ企業との意見交換を重ね、さらなる誘致を進めています。

70 億円超の直接投資を生んだ誘致活動の舞台裏

――素晴らしい事業が次々と生まれていますね。具体的にどのようなアプローチで企業誘致を成功させてきたのでしょうか。

坂井市長 誘致の軸としているのは、「企業が地域と共生できるか」「持続的な事業展開が見込めるか」という点です。 国の補助金の活用も後押しとなりました。たとえば橋本農園さんの場合は、農林水産省の補助金を活用しながら綿密な打ち合わせを重ねて進出に至っています。花王さんや熊谷組さんも同様に、しっかりと段階を踏んで参画いただきました。年間約 100 件にのぼる視察対応のなかで、関心をお寄せいただく企業様との接点を大切に育むことで、つながりの輪が着実に広がっていると感じています。

環境部GX推進課
政策推進室 前田 修二氏

前田 企業様にご進出いただくまでには、市長が申し上げたとおり、長期にわたる綿密な打ち合わせの期間が必要です。佐賀市では、その基盤として「一般社団法人バイオサーキュラーエコノミー協議会( BCC )」というプラットフォームを運営しています。この協議会では、CO₂ の利活用を基盤に、藻類などの生物資源を活用した資源循環と、持続可能な新産業・異業種連携を含むビジネスの創出に向けた活動を行っています。

興味を持っていただいた企業にはまず協議会の会員になっていただき、継続的に意見交換を進めます。「企業がやりたいこと」と「地元にとって望ましい形」をマッチングさせ、丁寧にすり合わせていく場として、このプラットフォームは誘致活動における大きな強みとなっています。

――佐賀市が進出企業を選抜するという形なのでしょうか。

前田 いえ、選抜という形はとっていません。ただ、この事業の要は「地元のご理解」です。その点を深くご認識いただき、地元企業や自治会に対して直接、誠実に説明していただける企業様とお話を進めるようにしています。

―― 2016 年(平成 28 年)に始まった企業進出による直接投資額は、すでに累計 70 億円を超えたとのことですが、どのような投資なのでしょうか。

坂井市長 はい。進出企業による施設園芸のハウスや藻類培養施設などの建設費だけで、すでに 70 億円を超える規模に達しています。

投資の波及効果は大きく、法人市民税や固定資産税といった税収増はもちろん、新たな雇用が生まれ、専門人材の育成にも直結しています。育った人材がまた新たなビジネスの種をまく。清掃工場周辺にグリーン産業が集積することで、将来の佐賀市を力強く支える「地域の稼ぐ力」が確実に育っていると実感しています。

――莫大な建設費は、佐賀市内の業者への発注など、地域への還元にもつながっているのでしょうか。

環境部 GX 推進課
政策推進室 古賀 亮一氏

前田 企業様によっては、地元の建設会社を積極的にご活用いただいています。ただ、高度施設園芸のように専門性の高い分野では、市外の専門業者でなければ対応が難しい部分があります。すべてとは言えませんが、確かな形で地域経済への投資還元につながっています。

――清掃工場周辺の企業用地はどのように確保されているのでしょうか。

古賀 大規模施設園芸を誘致するにはまとまった土地が必要です。そのため、現在新たに誘致を目指しているエリアについては、住民の皆様が所有していた土地を市が買い上げ、民間企業様に売却する形をとっており、民間企業様に確保頂いております。

前例なきCCUプラント建設、ゼロからイチを生む挑戦

――企業誘致の核となるCCUプラントですが、建設費は 14 億 5 千万円とのこと。補助金獲得や建設実現に向けた、法規制・技術面でのハードルは高かったのではないでしょうか。

坂井市長  まず 2014 年から 2016 年にかけて、佐賀市、東芝さん、荏原環境プラントさん、九州電力さんの四者で清掃工場内に実証実験機を設置し、地道にデータを集めて下地を作りました。ここで、コスト対効果や技術的安定性に関する膨大なデータを地道に蓄積したことが、後のEBPM(イービーピーエム)(エビデンスに基づく政策立案)の基盤となりました。

佐賀市CCUプラント
(佐賀市提供)

しかし、いざプラント建設となると、壁は想像以上に高いものでした。そもそも清掃工場におけるCCU という前例がなく、回収したCO₂ を農業や藻類培養に活用するという発想自体が当時は極めて新しいものでした。佐賀市側はもちろん、関係省庁にとっても完全に手探りのスタートでした。

技術的な工夫を一つひとつ積み上げながら、安全面や環境面について関係各所へ粘り強く説明を尽くしました。その結果、ようやく環境省から排ガス清浄設備として約 5 億円の補助金の採択を受けることができました。

――坂井市長はもともと法律を専門とされていますが、法律面で克服すべき点はかなり多かったのではないでしょうか。

坂井市長 おっしゃる通りです。2016 年当時は、CCU で CO₂ を農業や藻類培養に活用するという発想自体がなく、そもそも「ルールが存在しない」という白紙状態からのスタートでした。その中で、関係機関の理解を一つひとつ得ていくしか道はありませんでした。

前田 まさしく「ゼロからイチを作った」ことが最大の試練でした。国として予算をつけるという大きな決断をいただくにあたり、さまざまな委員会に一歩一歩説明を重ねた末に、ようやく補助金の採択までたどり着けたと思っています。

人口減少社会における資源循環の課題

――少子高齢化にともない今後も進む日本の人口減少ですが、ごみの量もこれに続き減少傾向にあります。さらに、2022 年に施行された「プラスチックに係る資源循環の促進等に関する法律」の影響で熱の燃料となる「プラごみ」も減少しています。熱エネルギーの減少が見込まれるなか、産業廃棄物の木材などをバイオマス代替燃料として活用することは検討されていますか。

坂井市長 ごみが減ること自体は環境的には良いことですが、同時に焼却によって生み出されるエネルギーも減少することは懸念されるところです。そこで、2021 年度(令和 3 年度)から 2023 年度(令和 5 年度)にかけて、環境省の委託事業として地域バイオマスの利活用に関する実証事業を行いました。

この実証を通じて、地域に存在するバイオマスの種類や発生場所、発生量を把握し、清掃工場での混焼に適した素材の選別を終えることができました。ただ、実装にあたっては「運搬コスト」という壁が立ちはだかります。排出事業者にとって、わざわざ清掃工場まで運ぶインセンティブがなければ、従来の処理ルートを変えることは困難です。今後は、工場が生み出す熱エネルギーの高付加価値化とセットで、バイオマス燃料を自発的に工場へ呼び込めるような経済的仕組みづくりを検討していく必要があります。

欧州の価値観を乗り越え、世界が認めた「サステナブルCO₂」

――ISCC PLUS認証の取得は大きな快挙です。この認証の意義と、取得に至るまでの苦労についてお聞かせください。

*ISCC PLUS認証:サプライチェーン全般(原料の調達から製品の完成)を通し、バイオマスや再生品などの持続可能な原材料を使用して製品を製造していることが認められる企業や団体に与えられる国際的な認証。世界の企業が素材を採用する際の『信頼の証』ともなる。

坂井市長 最大の意義は、清掃工場由来のCO₂ がバイオ由来の「サステナブルCO₂」であると、国際的な認証機関に認められたという点です。清掃工場由来のCO₂ でISCC PLUS認証を取得したのは世界初の事例となります。

この認証により、当市のCO₂ は「大気中に排出しても新たに温室効果ガスを増やさない、カーボンニュートラルなCO₂」として位置づけられました。現在、国内では産業用CO₂ の供給が不足していますが、佐賀市のCO₂ を活用していただくことで、企業の安定供給と脱炭素の双方に大きく貢献できます。さらに将来的にはカーボンクレジットの創出も視野に入れており、環境価値を直接的な経済価値へと転換できるようになります。

苦労した点は、欧州にある認証機関との「ごみ処理に対する価値観の違い」を理解いただくことでした。その欧州では自治体がごみを収集・処理する義務を負うという概念が一般的ではありません。そのため当初、佐賀市の事業が「利益目的の収益事業」と誤解されてしまったのです。日本の法律に基づく自治体の義務行為であるということから説明し、最初にその理解を得るまでが大変でした。

そして、この認証は佐賀市だから取得できたというわけでなく、このモデルが横展開できるよう、同様のごみ焼却施設を持つ自治体も認証されることが可能であるようにしています。

新たな挑戦―「CO₂液化」構想で国内の供給不足を救う

――CCUプラントの 1 日の排出量が約 200 トン中、現在およそ 10 トンを回収されていますが、今後の回収量の増量に向けたご計画などありますか。

坂井市長  企業誘致をさらに進めることで、進出企業のCO₂ 需要量を増やしていくとともに、現在「CO₂ の液化」に向けた本格的な検討を進めています。

液化の最大のメリットは、清掃工場の周辺に限らず、離れた場所へもCO₂ を届けられるようになることです。CO₂ は炭酸飲料やドライアイス、溶接用ガス、半導体製造などあらゆる産業で不可欠な存在ですが、国内ではその供給不足が課題となっています。カーボンニュートラルという環境価値を持つ当市のCO₂ を液化できれば、地域のCO₂ の有効活用と、産業界が抱えるCO₂ の安定供給という二つの課題を同時に解決することができます。

そこで今年より、伊藤忠商事さん、伊藤忠工業ガスさん、日本液炭さん、そして佐賀市の四者共同プロジェクトを立ち上げました。ここでは「佐賀市発のカーボンリサイクルモデル」を構築し、社会実装を目指しています。

――この一連の取り組みは、市民にとってどのようなメリットがあるとお考えですか。

坂井市長 まず雇用面では、企業の進出にともない少なくとも 50 人以上の新たな雇用が生まれています。若者にとっても「地元で最先端の仕事に就く」という選択肢が広がり、都市部への人口流出抑制やUターンの促進につながると期待しています。

財政面でも、企業版ふるさと納税で毎年およそ一千万円をいただいており、CCU設備の補修・維持やPR活動に活用しています。さらに、ごみの焼却で生まれた電力は小中学校や公共施設に供給し、近隣の温水プールには焼却熱を活用するなど、資源を市民生活に還元しています。

冒頭でお話しした通り、かつては反対の声もあった施設ですが、今では市民の皆様から「もっと企業誘致を進めてほしい」と背中を押される声も上がるようになりました。こうした声に応えながら、今後もさらなる価値を生み出していきたいと思っています。

――企業進出による雇用創出について、具体的にはどのような職種が生まれているのでしょうか。

前田  進出企業様が手掛けているのは藻類産業や高度施設園芸で、端的に言えば「DXを駆使した新しい農業の担い手」です。 現場では、各種データを分析しながら最適な栽培環境をシステム上で再現するという、高度にエンジニアリング化された業務が行われています。例えば、CO₂ や熱を送るだけでなく、IoTセンサーで日射量、温度、CO₂ 濃度などのデータをリアルタイムに収集し栽培環境を管理するということをしています。

また、進出企業の皆さんは地元の高校生との交流にも熱心に取り組んでくださっており、若い世代が「スマート農業」という最先端の働き方に憧れを抱く、そんな素晴らしい土壌が育ちつつあります。

――2025 年には国内外から約 100 件もの視察があったとのことですが、どのような方々が視察に来られているのですか。

坂井市長 2024 年度(令和 6 年度)は佐賀県全域で国民スポーツ大会((こく)スポ)*が開催された関係で視察の受け入れをやや抑えていましたが、それでも国内から 90 件、海外から 4 件の視察がありました。

*国スポ:「国民スポーツ大会」の略。都道府県対抗のスポーツ大会で、各都道府県持ち回り方式で毎年開催される。日本スポーツ協会・文部科学省・開催地都道府県の三者共催行事。2024 年開催の佐賀大会(SAGA2024)から「国民体育大会」の名称が「国民スポーツ大会」に変わった。

海外からの視察風景(佐賀市提供)

最も多いのは、脱炭素経営を模索されている企業の方々です。特に印象的なのは、海外からの視察に来られる方々の反応です。環境インフラであるごみ処理場のCO₂ を活用し、持続可能な循環経済を築き、最終的に市民がその恩恵を受ける――。この全体像を目の当たりにし、「清掃工場に対する概念が変わった」と大きな驚きをもって評価してくださいます。海外では、COP(コップ)(国連気候変動枠組条約締約国会議)で佐賀市のCCU事業がたびたび紹介されており、それが国境を越えた視察へとつながっています。

展望:ごみの焼却熱が、市民の暮らしと農業を守る未来

――今後、清掃工場由来の「熱」の利活用を推進していくことも計画されています。これにより、佐賀市の経済循環をどのように変えていきたいとお考えですか。

坂井市長 農業、とりわけ大規模施設園芸は莫大な「熱」を必要とします。ハウス内の加温や光合成の促進、作物の品質向上と収量増加のいずれにも熱は欠かせません。

近年、海外情勢の不安定化や円安の影響により燃料費が高騰し、農家の経営を圧迫しています。ここに清掃工場由来の廃熱を安価かつ安定的に供給できれば、農家のコスト負担は劇的に下がり、通年での安定生産が可能になります。結果として地域の経済循環が強化され、市民の皆様にとっても「食料価格と供給の安定」という直接的な恩恵をもたらします。

さらに、清掃工場は災害時にも熱と電力を自立供給できるインフラです。ごみ処理を起点としたエネルギーの地産地消は、いざという時の地域のレジリエンス(強靭化)向上に直結すると考えています。

――わざわざ熱を生み出していた従来施設のコスト削減にもなり、住民にとってもメリットがあるということですね。

前田 おっしゃるとおりです。ただし、熱はパイプラインで送っている関係上、輸送距離が長くなるほどコストがかさむという弱点があります。ですが、当市の場合、CO₂ の利活用に関心を持った企業様が清掃工場の周辺に集積しています。これにより、その弱点が補え、熱の活用が経済的に合理性を持っています。これこそが、佐賀市から起こすことができたイノベーションだと考えています。

全国・世界へのメッセージ

――最後に、脱炭素およびGXを目指す国内外の自治体に向けて、佐賀市からメッセージをお願いいたします。

坂井市長 私たちは、清掃工場を単なるごみ処理施設から「価値を生み出す拠点」へと捉え直し、CO₂ や熱を資源として活用する取り組みを進めてきました。

統合時の反対運動や制度上の制約など、数々の困難に直面しましたが、逆転の発想でそれらを環境の改善、企業誘致、新たな産業の創出、雇用へとつなげ、「地域の強み」へと変えてきました。

その意味で、それぞれの地域にある資源と課題の中に新しい可能性があると思います。私たちの取り組みを一つの起爆剤として、地域発の GX の輪が全国自治体へ広がっていくことを願っています。

そして、佐賀市としても、今後国内外の自治体の皆さんと知見を共有しながら、持続可能な社会の実現に向けて共に挑戦していきたいと思っています。

実務を通じて日々この事業を支えているお二人の職員からもメッセージをお願いいたします。

古賀 お恥ずかしい話ですが、私はこの部署に異動してくるまで、佐賀市でこれほど世界的に先進的なプロジェクトが動いていることを知りませんでした。一年が経った今でも日々驚きの連続ですが、自分がゼロからイチを生み出す事業の一端を担えることありがたく思いながら、個人的にも、職員としても、これからも力を尽くしていきたいと考えています。

前田 自治体の皆様は、法律や技術の壁に直面することもあるかと思います。その際は、ぜひ佐賀市にご連絡ください。これは国の補助金を得て継続してきた事業でもあります。その意味で、本事業で得たものを他の自治体さんにお返しするのが市としての責務だと認識していますので、どうぞお気軽にお尋ねください。そして、ぜひ佐賀市へも視察にいらしてください。

市長は、今の職員お二人の言葉を聞いて、どのようにお感じになりますか。

坂井市長 社会や産業の課題は目まぐるしく変化しますが、むしろその変化の中にこそチャンスが広がっています。地域に根差した課題に丁寧に向き合い続ければ、事業は思いがけない方向へと大きく伸びていけるのだと思います。

そういう意味で、地域の課題にたいして地道に挑戦を重ねていくことで、いろいろな伸び方ができるのだと感じています。十年以上かけて進めてきたこの取り組みは今、まさにいろいろなチャンスが広がる局面を迎えているようにも感じます。

困難な課題に直面しても挑戦を恐れず働いてくれる職員たちは、佐賀市の誇りです。国内外自治体のモデルケースとなることを目指し、頼もしい職員たち、そして地域住民の皆様とともに、持続可能な未来をここ佐賀市から築いていきたい。そう強く願っています。

* * *

「燃やして捨てるもの」から、新たな生命と産業を育む「豊かな資源」へ――。佐賀市が実現したこの鮮やかな価値の転換は、脱炭素社会を模索する世界中の自治体にとって、極めて実効性の高い希望のモデルとなっている。ごみ処理・農業・エネルギーという本来は別々の世界が、CO₂ と熱のパイプラインを軸にひとつの循環へと束ねられた。この「異業種の壁を超えた連携」こそが、佐賀モデルの核心にある。

次なる問いは、この連携をさらに広げ、精度を高めていくことだ。各施設のエネルギー情報をオープンなデータ基盤で可視化・共有し、最適な活用法を探ること。そして、気象の急変時にも栽培ハウス内の機器が瞬時に自動対応する高度なスマート農業の仕組みを、そのデータ基盤と連動させることが次の鍵となるだろう。官民が一体となって進化を続ける「グリーンアグリバレー」から、今後も目が離せない。資源循環の最前線のひとつは今、間違いなく佐賀市にあるのだろう。

*本記事は、地方公共団体DX事例データベースに掲載しているDX事例「佐賀市GXモデル~世界初の清掃工場CCUプラントCO₂活用事業」の特集記事となっています。こちらもあわせてご覧ください。

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