東京 23 区の東南端に位置し、東を流れる江戸川を挟んで千葉県と向かい合う江戸川区。都心部へのアクセスの良さや公園の多さ、子育て世代への支援の充実などから若い世帯の多いベッドタウンとして知られている。区は 2021 年 (令和 3 年)に「江戸川区子どもの権利条例」を制定し、地域全体で子どもを育て、子どもが学び育つ環境の支援を宣言しているなど、子育て支援への意識の高さがうかがえる。
その江戸川区に児童相談所が設立されたのは 4 年前の 2020 年 (令和 2 年) 4 月。もともと特別区である東京23区は児童福祉法により児童相談所が設置できなかった経緯があり、以前は江東児童相談所が江東区と江戸川区と墨田区を管轄していた。だが、 2010 年 (平成 22 年) に起きた小学1年男児の痛ましい児童虐待死事件が契機となり、当時の多田区長は「江戸川区の子どもは江戸川区で守る」という思いを強くし、 23 区初の児童相談所設立へと向けて精力的に活動を開始。
2017 年 (平成 29 年) に改正児童福祉法が施行され、特別区 (東京都 23 区) で児童相談所の設置が可能になったことで、2020 年 (令和 2 年) 4 月には江戸川区の児童相談所「江戸川区児童相談所 はあとポート (通称:はあとポート)」を設立。同時に世田谷区にも設立され、この 2 つが初めての特別区の児童相談所となった。
現在、この江戸川区児童相談所の試みが全国的に注目を集めている。開所当初から虐待対応などの激務に追われる職員の状況を打破すべく、江戸川区児童相談所は業務のDX化を推進した。コールセンター向けの電話応対支援AIシステム「ForeSight Voice Mining」を導入。通話音声分析・会話内容モニタリング機能をもつ本システムを活用し、電話応対業務の効率化や応対支援を実現したのだ。「Digi田甲子園2023」の審査委員会審査結果で5位に入賞するなど、その取り組みは注目を集めている。
こうした江戸川区児童相談所の先進的な取り組みについて、江戸川区児童相談所 はあとポート援助課 援助調整係係長 横山智哉氏(写真中央)、菅谷拓紀氏(写真右)に、ForeSight Voice Miningについて、同サービスを提供している NTTテクノクロスのデジタルトランスフォーメーション事業部 下田茜子氏(写真左)にお話を伺った。
児童相談所の役割と課題
――児童相談所の役割について教えてください。
横山 児童相談所は、戦後の戦争孤児支援から始まっています。昭和の時代は親御さんが亡くなった場合に預かったり、お子さんの障害も含めた子育ての相談を受けたりする役割を主としていました。
平成以降は、児童虐待への対応が多くを占めています。原因としては、地域社会のつながりが希薄化し孤立した親が増えていることや、複雑な家族構成が増えているといったことがあげられます。また、昭和の頃は子どもを叩いて躾するみたいな風潮があったのですが、医学的にも心理学的にも子どもの成長に良くないというのがわかっています。虐待に対する社会の認識が高まり通報しなければという意識が向上し、以前は見過ごされていたケースが見つかるようになってきました。
当所では、虐待通報の受付・相談ばかりでなく、子育て相談の受付もしています。たとえば、「うちの子が登校できなくなってしまった。どうしたらいいか」といった相談や、共働き夫婦で旦那さんのお仕事が忙しくて、お母さんワンオペ状況で「もういっぱいいっぱい」ということを涙しながら訴える方もいらっしゃいます。ただ、虐待に関する対応のほうが割合としては多いです。
――そういった虐待についての相談や通報は江戸川区ではどれぐらいの件数があるのですか?
横山 2022 年度 (令和 4 年度)では 3598 件の相談受理件数がありました。国は「児童相談所虐待対応ダイヤル 189」を設けて 24 時間 365 日、通報を受け付けていますが、江戸川区だけの児童相談所を開設したので、江戸川区に関するものは区で 365 日 24 時間受け付けています。児童相談所は区役所の中の一機能なのですが、ここだけは警察や消防と同じように常時受け付けています。
――児童相談所の一時保護はどのような役割があるのですか?
横山 虐待から子どもを守るのが一時保護です。保護期間に一時的な生活の場を提供します。一時保護の期間は基本は最長 2 か月間で、その期間に社会診断、子どもの行動診断、心理診断、親御さんのとの面接などを重ねて、親子関係を再構築して家庭に返すことを目指しています。しかし、一時保護後、家庭に返すことができないとなると、児童福祉施設入所や里親委託をすることになります。
一時保護の件数は、2022 年度 (令和 4 年度) で 278 件です。定員は 35 名なので常時満員という状態です。東京都内の児童相談所はどこも 100 % 超えです。そういった状態で受け入れられない場合は、都や他の特別区の児童相談所にお願いしたり、また里親さんに一時保護の委託をしたりする場合もあります。
――江戸川区児童相談所が持つ一時保護施設は、全国で個室の保有数がいちばん多いということですが。
横山 はい、江戸川区ではプライバシーも配慮して、部屋も個室で入浴も個浴になっています。新しく設立される児童相談所は、全国的に個室化、個浴化に向かっています。虐待を受けたお子さんには傷やあざがあったりして、大浴場での入浴は負担になるということがあります。綺麗で居心地がいいので帰りたくないと言うお子さんなんかもいたりして。気持ちを落ち着けられる場所になっているようです。
――児童相談所の日々の業務では、どのようなことが課題になっていたのでしょうか?
横山 先ほどお話しましたように、虐待の通報は 24 時間 365 日受け付けています。日中はそうした新規通報への対応や電話応対、面接や家庭訪問などを行います。場合によっては茨城、埼玉、長野県といった遠方まで足を運ぶ必要があるため、職員の負担は大変なものでした。夜は職場に戻って経過記録の入力などをします。平日は夜遅くまで残業し、時には土日も出勤して処理を行う必要もありました。それが児童相談所の職員の現状です。
何より、私たちの仕事は事務を執行するだけではありません。相談者の方と実際に対面し、悩みを受け止める必要があります。心理的な負荷もたいへん大きいのです。こうした職員の負荷をDX活用で軽減することはできないだろうかと、現状打破のための解決法を模索していました。やはり職員は大変な状況で、今でこそそれほどありませんが、開設当初は、病欠、休職、退職者も少なからずありました。
電話応対支援AIシステムの導入
――そうしたなかで、電話応対支援AIシステム「ForeSight Voice Mining」の導入に至ったのですね。
菅谷 はい。開設当初、こうしたシステムがあるということを専門職の方に教えていただき、大学の先生からも詳しくお話を伺う機会がありました。それを契機に「ForeSight Voice Mining」(NTTテクノクロス提供)の導入を検討するようになりました。その当時はAIで通話記録をテキスト化して業務改善を行うためのシステムを導入している自治体はほとんどなかったため、前例のない試みでした。
しかし、開所間もない児童相談所で大勢の職員がバーンアウトしてしまうことは何としても避けたかった。早い段階からDX推進課(当時は情報政策課)や財政部局に相談し、よく趣旨を理解いただいたうえで 2021 年 (令和 3 年) の導入へと踏み切りました。
――先進的な試みだからこそ、内部の理解を得るのに時間を要したということですね。
横山 はい。当所のシステムを導入したいということで視察に来られる自治体さんにも予算、お金の話は必ずしています。皆さん苦慮されている点なのですが、財政課をどう説得するかということですね。私たちも苦労した部分ですが、まずはよく話して現状を知ってもらうのが重要だと思います。
――電話応対支援AIシステム「ForeSight Voice Mining」の仕組みについて教えていただけますでしょうか。
下田 「ForeSight Voice Mining」は、サーバ側で電話内容をテキスト化し関連情報を表示する仕組みになっています。職員が電話応対するときはこの画面を見ながら業務を行う形になります。
画面左には通話内容がリアルタイムでテキスト化され、表示されます。中央の「ナレッジ」には通話内容に適したマニュアルやガイドラインが自動で表示されます。
横山 たとえば小岩に引っ越してきた方から近隣の保育園について問い合わせがあった際、自動的に小岩地区の地図が表示され、保育園の所在地、またそれらの施設情報もナレッジを通じて確認できます。
通報の電話があったとして、まずは何を聞けばいいか迷う職員もいると思うのですが、ナレッジに通話内容に関連したマニュアルやガイドラインなどが表示されるため、応対を中断することなく必要事項を参照することができます。このナレッジはマニュアルのペーパーレス化にも寄与していますね。
――右上にチャット画面もありますね。これは他の職員と相談するためのものでしょうか。
下田 はい。上司や同僚が同時にモニタリングできるスーパーバイザー支援機能を搭載しており、こちらがモニタリング画面です。
リアルタイムで通話内容を共有することができ、対応が難しいケースにおいてはチャットで周囲の助言を得ることができます。
また、職員向け画面の右下にあるように、リアルタイムの通話内容の要約を表示する機能も実装しています。
――要約機能において、ChatGPTなどの生成AIが果たす役割についてはどのようにお考えでしょうか。
下田 現状では、このようにサーバ内で不要なワードを削除して内容をまとめる機能はあります。一方で、ChatGPTなどの生成AI でより簡潔にまとめる場合は、重要な情報の抜け落ちがない等の情報の正確性や、情報を取り扱う上での安全性も担保する必要があると考えています。
今後、NTT版 LLM「tsuzumi」にはそれらの課題解決の可能性を感じており、実装に向けて開発を進めているところです。
システム導入の成果
――システム導入前後とではどのように業務の状況が変化しましたか。
横山 たとえば役所の窓口で納得いかずに大声をあげる人がいたら、その場にいる職員が複数名で対応しますよね。しかし、電話応対は常に一人、孤独なのです。また、今までは上司や同僚内容を共有するためにいったん電話を保留にする必要があり、その間待たされている相談者の怒りを増幅させる結果になっていました。
しかし、このシステムでは会話内容が周囲に共有されるので、上司がチャットや紙で「こうしたほうがいいんじゃないか」という指示を即座に出せるのです。また、職員にアンケートを取ったところ「みんなが見てくれているのがわかり、応援されている感覚になった」という声もあり、メンタルヘルスに良い効果を及ぼすことも確認できました。
――見られていることで緊張するのではなく、守られている感覚になるということですね。
横山 私たち市区町村は企画部門や庶務、現場が一緒のフロアで働いているため、みんなでやっていこうというチームプレーの感覚が強いからかもしれません。しかしこうしたメンタルヘルス面における効果についてはシステム導入当初はまったく予想していなかったことです。
また、今までは電話を受けた後は係長へ内容を報告する必要がありましたが、今は上司が内容を共有しているため、その必要もありません。逆に長い電話の後は上司の方から労いの言葉があったり、同僚がお菓子を差し入れてくれたりします。こうしたことは業務効率とは直接関係ありませんが、とても重要な変化だと思います。
システムの実証実験から本格運用まで
――本格運用に入るまでに、苦労した点や工夫した点があれば教えていただけますか。
菅谷 まず、本格運用前に 3 か月の実証実験に取り組みました。本システムはもともとコールセンター向けのソリューションであったため、児童相談所や自治体特有のコンテクストをNTTと江戸川区と共同で作り上げていきました。10 台の端末で、リアルタイムテキスト化のためのチューニング作業を行い、その精度が上がってきた段階で本格運用に入りました。実証実験から本格運用まではかなり期間を削ったスケジュールでしたが、 2021 年 (令和 3 年) 1 月から本格導入となり、システムも 110 台設置しました。
本格運用においても当初は係長級のスーパーバイザーだけが全員の通話をモニタリングできるようになっていたのですが、現場の声を汲み上げ、スーパーバイザーだけではなく他の職員にも共有できる機能を実装したところ、先ほどご説明したように組織全体の対応力向上へとつながりました。
若手職員の育成について
――若手職員の育成やノウハウの継承にこのシステムがどのように役立っているのでしょうか?
横山 通話内容の録音音声を使った職員の研修を行っています。やはり、若手の職員は経験も知識も不足しているため、通報を受ける時に怖い、気が引けてしまうという場面があります。指導が必要なときもありますが、そういう職員が先輩の通話内容を聞くことで、「こういう言い方があるのか」と学ぶことができる、あるいは先輩が若手の職員の通話内容を聞くことで「こういう言い方をしたほうがいいんじゃないか」と気づくことができるわけです。今の若い人は、分厚いマニュアルを出してもなかなか読まないということも多い。そこで、音を聞く、音から学ぶという重要性もあるように思います。
また、先ほどのナレッジもトレーニング材料としても活用しています。たとえば携帯ショップで何かわからないことを質問すると、ベテランの店員だと料金プランを含めていろいろな知識を教えてくれますが、入りたての店員だとそれほど詳細に答えてくれませんよね。やはり、行政としては職員間で差をつけないサービスの提供を目指したいのです。ナレッジに表示された内容どおりにご案内すれば的確なサービスを提供できる。それは 1 年目の職員でも 10 年目の職員でも変わりありません。それは組織全体の対応力を高めることであり、区民の方にとって常に等しいサービスを享受できるというのは大きなメリットになります。
若手職員、未経験者だからこそ醸成できるDX機運
――新たに配属された方が仕事に慣れるまでの時間も短縮できそうですね。大体何年おきに若手職員の方が入ってきて、児童相談所にどれくらいの間従事するのでしょうか?
横山 公務員は通常、大体 3 年目から人事異動対象になりますが、児童相談所は専門職が多いため、従事期間は比較的長くなります。長く従事したいという希望を持って専門職として働いている職員は多いです。その一方で、まったく違う部署から異動してきた事務職が、はじめてこの仕事に携わるという人もいます。
――資格がない事務職であっても、福祉司と同等の仕事を任されるということですね。
菅谷 そうですね。児童福祉の仕事の経験や大学での社会学や心理学の履修経験で任用されることもあります。実際適正はそれぞれですが、事務職は視野が広いという傾向はあるかもしれません。新しいシステムが導入された際、それをどのように児童相談所の業務に生かせるか、率先して考え、行動する力があると思います。新しい動きに対して柔軟性があります。
横山 福祉分野のDXがなかなか進まない要因の一つとして、専門職は普段の業務に忙殺されて、考える余裕がないということもあげられると思います。
――新しい環境に加わった職員の方がDX推進について提案されることがあるわけですね。
横山 そうですね。そして、それを受け止める土壌が役所内にあるとうまくいくのではないでしょうか。私の 20 年間程の区役所での勤務経験からですが、新たなDX化を進めていくと、やはりアレルギーを持つ職員は多いです。この児童相談所は開設したばかりでみんなが児童相談所の業務は初めてという感じでしたので、新しい動きを受け入れる土壌があり、うまく始められたのかなと思います。毎年新規採用の職員が入ってきて、他の自治体から勉強のために派遣されてくる方もいますが、今ではこのシステムを使うことが前提で業務が始まります。逆に他の部署に異動したときはうちのシステムを紹介する。そういうパターンが定着して業務改善できればと思っています。
――何か良い波及効果というのは起こりましたでしょうか?
横山 江戸川区役所のほかの部署でこのシステムを導入した例はありませんが、「ForeSight Voice Mining」はもともとコールセンター向けAIソリューションであり、児童相談所だけではなく役所のどの部署でも活用できると思います。すでにこれまで警察や消防署、医療機関などからも問い合わせがあり、今後の展開に期待しているところです。
リスクアセスメントについて
――総務省の 2024 年 (令和 6 年) の「自治体DX推進参考事例集」のなかで、通報時の虐待リスク評価を予測判断するためにAIやビッグデータを活用したリスクアセスメントシステムを構築中とありました。これについてご説明いただけますか。
横山 現在は、三重県さんなどで取り組まれていますが、これは過去の事例(ビッグデータ)を参照することで、児童虐待リスクの観点から一時保護するべきかどうかの判断基準を持った AI を構築するという試みです。人の判断が重要なのはもちろんですが、人事異動が多く、それによる職員の経験年数の浅さといった問題もあるため、過去の事例から危険度を割り出すという研究開発が進められています。私たちもこのリスクアセスメントシステムの検討は行っていますが、今実際に導入しているわけではなく、国や他の自治体の状況を見ているという状況です。
菅谷 「こども家庭庁」でも虐待防止に AI を活用する方針で、 2024 年度にも全国共通のシステムの運用を始められるよう準備を進めていましたが、技術的にもまだ難しい部分があり、今は過去の類似事例とその対応事例を出すような形に方向転換していると聞いています。
横山 江戸川区児童相談所は令和 2 年 ( 2020 年) の開設なので、どうしてもデータに乏しい部分があり、その点はやはりもう少し広く全体の児童相談所のデータが集められる国や、児童相談所の歴史の長い都道府県との連携が必要になるでしょう。個人的には、今の段階では AI はあくまで人の判断を補助するためのツールとして活用するのがいいのではないかと思っています。
DXにおける江戸川区児童相談所の展望
――現在運用中のシステムの今後の改善点や課題など、お気づきの点はありますか。
横山 先ほど ChatGPT の話がありましたが、リアルタイムの通話内容の要約機能の精度を高めて、記録作業をさらに軽減できればと思っています。
また、児童相談所の業務には会議も多いのですが、学校の先生や病院の先生、関係者の方々を含めて時には 10 人以上、数時間に及ぶこともあります。そうすると膨大な量の採録を行う必要があるわけですが、マイクを置いただけで自動的に文字化されるような環境になればいいですね。現在では電話仕様の一対一の応対用なので、複数名の会議には対応していないのです。
――今後の児童相談所でのDX推進への展望をお聞かせください。
横山 システム導入により電話対応の際の負担は軽減できましたが、江戸川区児童相談所としては、今後も一層の DX化を推進していきたいと考えています。職員の業務の中で他に多いのが面接や訪問なのですが、いまだにノートやメモを持って筆記しています。他の部署では訪問時にタブレットを持参しているところもありますが、児童相談所では、タブレット持参は個人情報を外部に持ち出すことになるので実現できていません。その壁を打ち破って、訪問、面接、会議などの場面で活用できれば負担軽減と効率化が可能ですし、ペーパーレス化にもつながります。
もちろん DX は一朝一夕に進むものではありませんが、今回のシステム導入によって実際に効果を示せたことで職員意識の改革にもつながりましたし、今後予算も確保しやすくなるでしょう。今回のシステム導入はDX推進における第一弾としては成功だったと考えています。
児童相談所を展開している自治体・他組織へのメッセージ
――この取り組みを検討している自治体や他組織にアドバイスをお願いできたらと思います。
横山 やはり、児童相談所にとっていちばん重要なのは、「直接お子さんや保護者の方と向き合う」という部分だと思います。私たちが児童相談所を開設した時はちょうどコロナ禍の最中でした。その時は Zoom で面接を行っていてオンラインが普及するかにみえました。しかし、今もオンラインで面接を行っているかというと、ほとんどの保護者はそれを望んでいないのです。やはり対面でお会いするということが大切なんですね。
このシステムを導入することで、「精神的ゆとりができた」「効率化した」という成果ももちろんあげられますが、何より私たちに「子どもと直接向き合う時間が増える」ということが重要なのかなと思います。たとえば遠方にある施設に入っているお子さんにお会いできるのは年一回、ということもあります。しかし、児童相談所の相談員であっても会いにいくと本当に喜んでくれるのですね。もし DX で事務作業を軽減して年二回行くことができたら、やはり違うでしょう。効率化は、結果として子どもや保護者の方への良い支援につながっていくのです。私たちも他の自治体さんからも勉強させていただくことがありますが、区の取り組みについて何かご質問などありましたら、遠慮なくいただければと思います。
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地方自治体での DX導入の目的に業務効率化が置かれることは多い。今後、ますます少ない人員で多岐にわたる質の高い行政サービスを提供していくことが求められている。そうしたなか、インタビューの中の「子どもと直接向き合う時間が増やすことが重要」という言葉は特に印象に残った。なぜなら、児童相談所の本質が「子どもと直接向き合う」ことであり、システムの導入によって、そのための時間や職員の精神的ゆとりを生むことができるからだ。心のかよった福祉サービスの向上のために多くの DX の試みが広がることを期待したい。
本記事は、 地方公共団体DX事例データベースに掲載しているDX事例「児童相談業務に AI を活用し相談業務の強化と関連業務の効率化」の特集記事となっています。こちらもあわせてご覧ください。