防災対策にIoT共通プラットフォームを活かす~「スマートシティたかまつ」の取り組み

1年を通して日照時間が長く、瀬戸内特有の温暖な気候に恵まれた香川県。高松市もその例に漏れず、周囲を山に囲まれているために台風の直撃を受けにくく、地震発生の際も大きな津波が起こる可能性は比較的小さいと言われる。その香川県高松市は 2017 年 10 月に「スマートシティたかまつ推進協議会」を設立し、産学民官の連携の下、スマートシティの推進、DX化へと大きく舵を切ったが、その過程において特にIoT共通プラットフォームを採用した防災対策に注力。また、近隣市町と本市のIoT共通プラットフォームを共同利用する取り組みも開始しており、広域で迅速に情報を共有する仕組みを構築している。

そこで、香川県高松市 総務局 デジタル戦略部 デジタル戦略課 課長補佐の細川和久氏に、防災関係を中心に「スマートシティたかまつ」の取り組みの経緯、成果、課題などのお話をオンラインで伺った。

高松市 デジタル戦略課 課長補佐 細川和久氏
高松市 デジタル戦略課 課長補佐 細川和久氏

2004 年の「苦い記憶」から前に進むために

――高松市は自然災害の被害が比較的少ない自治体と聞いていますが、そうした中でもIoTを活用した防災対策を始めたきっかけは何でしたか?

細川 確かに高松市は災害が比較的に少ない地域と言えます。しかし、悪条件が重なると都市機能と海の近さが仇となり、広範囲に被害が発生する危険性があります。実際、2004 年に到来した 2 度の台風により、住家損壊や床上浸水のみならず、死者や負傷者を出し、中心市街地が広範囲にわたって水没するという大きな被害に見舞われました。この台風による経験が、その後のIoTを活用した防災対策を推進する契機になったと言えるでしょう。

またIoT利用に関しては別の文脈もあり、2016 年の G7 伊勢志摩サミットの際に、関係会合として高松市で情報通信大臣会合が開催されたことがあります。その開催をきっかけとして、スマートシティや、データ利活用に向けた機運が高まり、各種取り組みの検討が始められました。その過程で、ずっと根底にあった 2004 年の苦い記憶を活かすべきだという議論が進み、南海トラフ地震の危険性も高まる中、防災分野への取り組みが決まりました。

防災情報の可視化における試行錯誤

――その防災対策は、現在「スマートシティたかまつ」の取り組みの中で結実しているわけですが、G7伊勢志摩サミット以降、具体的にどのようなプロセスで進められていったのでしょうか?

細川  G7 伊勢志摩サミット翌年の 2017 年に総務省補助事業の「データ利活用型スマートシティ推進事業」を活用し、スマートシティたかまつの実現を目指して、IoT共通プラットフォームを構築しました。取り組む分野として、「防災」のほかに「観光」分野での検討を開始しました。防災分野では、水位・潮位などのセンサー情報をプラットフォーム上に収集し、利活用する取り組みを 2017 年度より開始しました。

――防災分野ではどのようなデータを収集し、災害対応に役立てていくのですか?

細川 センサーから取得したリアルタイムデータと地図情報を組み合わせることで、早期の安全対策の実施、災害対応の効率化を図っています。具体的には、水位・潮位センサーなどによるリアルタイムの観測情報、電力スマートメーターによる停電状況、避難所の開設有無、避難者情報などを地図上に可視化します。これを使って、土嚢の手配や交通事業者への周辺状況通知を実施、さらに避難所の使用可否や地域の停電状況を把握することで、より正確な避難発令を判断することが可能になります。

防災分野でのデータ収集・利活用
防災分野でのデータ収集・利活用

――この具体的な成果の一つが防災分野の職員向けダッシュボードの構築と市民向けダッシュボードの公開ということですね。そして、2023 年にはこの市民向けダッシュボードが「高松市スマートマップ」として生まれ変わりました。この経緯を教えていただけますか?

細川 防災情報の可視化については試行錯誤を重ね、職員向け・市民向けともに構築後数年にわたって運用していきました。そうした中、2022 年に政府のデジタル田園都市国家構想の事業に参画し、さまざまなサービスをデジタルで作っていくという過程で、インフラデータを「地理空間データ基盤」に載せて、地図上で公開するという提案を高松市が行いました。その成果の一つが「高松市スマートマップ」であり、市民向けに公開していた防災情報についても他のインフラデータとともに公開する運びとなり、「高松市スマートマップ」への移行を行いました。

職員向けダッシュボード
職員向けダッシュボード
高松市スマートマップ(2023年~)
高松市スマートマップ(2023年~)

「地理空間データ基盤」により、市が保有するデータをスピーディーに共有・公開

――その「地理空間データ基盤」について教えていただけますか?

細川 こちらの全体構成図でご説明しましょう。最初に稼働したのは「IoT共通プラットフォーム」の部分です。ここには高松市内の水位・潮位、冠水状況、降雨量などのリアルタイム情報が取り込まれ、それらを統合してダッシュボードに表示しました。この「IoT共通プラットフォーム」は、FIWARE(ファイウェア)を使って構築されています(NEC社提供)。FIWAREは欧州で始まったオープンソースのデータ連携基盤で、都市OSなどとも呼ばれています。

プラットフォームの全体構成図
プラットフォームの全体構成図

そして、「IoT共通プラットフォーム」と連携する形で 2022 年に「地理空間データ基盤」(Geolonia社提供)を構築しました。これにより、防災分野に限らず市が保有するさまざまなインフラデータ――たとえば、高松市が持っている都市計画情報、道路台帳、施設情報などの豊富な地理情報を地図上に集約して表示できるようになりました。またこれらデータが市民や事業者の方が2次利用できるような形で各種データを公開しています。2023 年に公開した「高松市スマートマップ」はこの「地理空間データ基盤」を使って実現されていて、上に挙げた各種の地理情報を誰でも地図上で確認することができます。

――「IoT共通プラットフォーム」には、高松市だけでなく「かがわ防災ポータル」からの香川県の防災情報も取り込まれているのですね。

細川 はい、たとえば河川の場合、川の規模によって県が管理するのと市が管理するものとあります。規模が大きいものは県が、小さいものは市が管理しているのですが、私たちとしては県が管理する河川の状況も当然把握する必要がありますので、香川県の情報を取り込んでいます。マップ上では、どちらの河川の水位も把握することができます。

――「たかまつマイセーフティマップ」も一般公開されています。

細川 「たかまつセーフティマップ」は、市民がより手軽に利用できるように、防災目的の機能に特化したWEBアプリです。スマートマップは防災、道路などのさまざまなインフラ情報を閲覧できるマップですが、「たかまつマイセーフティマップ」は特に防災寄りの情報に絞り、浸水予測のメートル数・地域の災害リスクや、近くの避難所・病院・消防署・AED設置場所などの情報がタップすれば表示できるという、ユーザーインターフェースを工夫した地図となっています。

――災害情報の閲覧は、災害対応する職員向けと一般市民向けがそれぞれ別に用意されているのですね。

細川 はい。職員向けダッシュボードでは、より詳細な災害情報が把握できるようになっています。たとえば、水位・潮位センサー設置付近のカメラ画像、浸水想定区域図などのハザードマップ関係の地図情報などを表示していますが、これは台風が接近すると立ち上げられる災害対策本部でも実際に使われるものになります。そういったリアルな災害対策の現場で職員向けダッシュボードが使われます。

災害対策本部で活用される職員向けダッシュボード
災害対策本部で活用される職員向けダッシュボード

――高松市が設置しているIoT機器にはどのような種類がありますか?

細川 大きく分けてセンサーとカメラがあります。センサーには、河川の水位を測る水位センサー、護岸に設置され潮位を測る潮位センサー、アンダーパスの冠水状況を見るセンサー、そして避難所になっているコミュニティセンターなどの施設が停電していないかどうかを見るセンサーがあります。

これらの機器設置以前は、台風が来ると強風の中、職員が定期的に現地パトロールを行い水位や潮位を報告していましたが、それらのデータが「IoT共通プラットフォーム」に収集されるようになり、一元管理できるようになったわけです。まったく行く必要がなくなったというわけではないのですが、前もって状況を把握して現場で対策をとれるという点で災害対策の高度化・効率化に大きく寄与しています。

水位・潮位センサーとその制御ボックス
水位・潮位センサーとその制御ボックス

2市1町の広域連携で挑む、災害に強い町づくり

――2020 年 3 月には、近隣地域である綾川町と観音寺市の 2 市 1 町の間で連携協定を締結しました。

細川 「IoT共通プラットフォーム」は高松市だけではなく、綾川町と観音寺市さんにも使っていただいています。まずは防災分野における活用に注力し、綾川町、観音寺市の水位・潮位データ、気象情報などの防災・減災に必要なデータも収集し、同じダッシュボード上に2市1町の情報を一元的に表示できるようになっています。これにより、綾川町、観音寺市を含めた2市1町の広域で迅速に災害情報を共有できるようになりました。

――災害情報の広域共有以外に、プラットフォームの共同利用のメリットはありますか?

細川 綾川町さん、観音寺市さんには、プラットフォーム利用料の形で負担金を担っていただいています。各自治体が自前でそうしたプラットフォームを一から用意するのは負担が大きいですから、コストの軽減というメリットも少なからずあります。

また、災害の発生については市町で区切られるものではなく、さらに通勤・通学などで市町をまたいで生活されている住民の方々も多くおられることから、近隣自治体同士の情報が一元化されているといったことも広域連携のメリットと言えると思います。

今後の課題

――「スマートシティたかまつ」のさらなる発展に向けて、今後の課題にはどういったものがあるとお考えですか?

細川 いろいろあるのですが、防災という点からはIoT機器に関する課題が挙げられます。センサーの設置とその運用は、コストの関係から何十ヶ所も取り付けることはできません。現状で果たして十分なのかという模索は常に必要であり、有効性を確かめながら、引き続き考えていく必要があるでしょう。

水位センサーと潮位センサーについては、昨年機器の更新を行いました。24時間水に浸かっていますので劣化が早く定期的な更新が欠かせません。またカメラの更新も行いましたが、ここ数年でも高性能化が進んでおり、夜間でも以前より鮮明な映像が取得できるようになりました。

防災システムを検討している他の自治体へのメッセージ

――災害対応のための防災システムを検討している自治体に向けてメッセージをお願いできますか。

細川 災害対応と一口に言っても、高松市のように海が近いのかあるいは山間部なのかといった地理的条件によってまったく変わってくるでしょう。システムの形態についても、私たちのように汎用的な共通プラットフォームを採用するのか、あるいは防災に特化したシステムにするのかなどさまざまです。またIoTセンサーには通信ネットワークが必要ですが、その方式には各種あり、コスト面も含め、検討すべき内容は広範囲にわたります。

システムについては、私たちがスタートした 6 年前に比べて、デジタル技術の進展により、現在は選択肢がとても多くなっています。昨年 2023 年 5 月に「自治体総合フェア 2023」を見学しましたが、本当に多くの選択肢があり検討材料に事欠きません。

引き続き、最新技術の動向や他の自治体さんの取り組みについても勉強していきながら、発展させたいと思っています。

スマートシティたかまつ推進協議会

高松市では、「スマートシティたかまつ」の実現を目指して、2017 年 10 月に「スマートシティたかまつ推進協議会」を設立。産学民官の多様な主体との連携を図り、共通プラットフォーム上での官民データの収集・分析を通して新しい応用システムを構築することで、地域課題の解決する取り組みを進めている。
協議会では、具体的に以下の事業を実施している。
(1) スマートシティ化に向けた実証事業の推進
(2) 共通プラットフォームの活用の推進
(3) 実証事業への住民参画の促進
(4) 成果などの国内外への普及展開
(5) その他協議会の目的を達成するため必要な事業
これらの事業の実施のために、協議会内には分野ごとのワーキンググループ(WG)を立ち上げ、産学民官が連携して課題の整理から始め、実証事業を重ねながら社会実装を目指した活動を行っている。

スマートシティたかまつ推進協議会内のWG
スマートシティたかまつ推進協議会内のWG

* 本記事は、 地方公共団体DX事例データベースに掲載しているDX事例「IoT防災スクラム~データ連携!自治体広域連携!!~」の特集記事となっています。こちらもあわせてご覧ください。

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