展開地域名: 神奈川県横須賀市
解決すべき課題
■救急出動の増加原因の一つに、65 歳以上の高齢者の搬送件数の増加が考えられ、今後も、高齢化が進むと予想されることから、病気や事故を未然に防ぐ取組である「予防救急」の推進や、「患者等搬送事業者の認定制度」を導入し、高齢者入所施設等から医療機関への通院、入退院及び病院間搬送等において、市民や医療機関が民間搬送業者を安心・安全に利用していただくとともに、救急出動に対する需要対策を図っている。
● 救急活動の課題としては、救急需要の増加や交通環境の変化等による現場到着時間及び現場活動時間の延伸等の様々な問題がある中で、更なる救急処置の高度化など病院前救護体制の充実・強化が求められている。
・本件の問題解決に医療機関との更なる連携体制の構築が重要となるが、救急現場から医師への情報伝達ツールの基本は、電話による音声伝達であった。そのなかで、重症者の受入れの際は、救急隊員の傷病者観察による重症度・緊急度の判断を医師へ説明し、医療機関と情報共有していた。しかし事故等による多発外傷の怪我の様子や微妙な心電図変化等、音声では伝えきれない内容がある等課題があった。
解決の手法
■電話による音声と共に救急車内の傷病者の映像を伝送することで傷病者の病態を医療機関と「リアルタイム」に共有し、情報伝達時間の短縮を図れ、適切な医療機関への搬送を効率良く、効果的に行うことを目指した。
● その方法として、消防局では、平成 26 年度から株式会社横須賀テレコムリサーチパークYRPユビキタス・ネットワーキング研究所が開発した、ICT(情報通信技術)を活用し、傷病者の状況等を医療機関とリアルタイムで共有する「救急医療支援システム」の導入を開始。
● 導入までの平成 25 年 10 月から平成 26 年 3 月の半年間で、評価運用として横須賀市が保有する救急車の約半数にシステムを導入し、実際の救急医療現場においてシステムの評価運用を行っている。
● 個人情報の取扱いについて、オンライン結合による保有個人情報の提供に該当するシステムとなっているため、平成25年度に市の付属機関である横須賀市個人情報運営審議会へ報告し承認を得たからの導入開始となっている。
(横須賀市「「救急医療支援システム」の導入について」」参照。)
<救急医療支援システムの機能>
1. 映像伝送機能
原則、傷病者(家族)が映像伝送に同意された場合(意識がないなどの緊急時は除く)、救急車内に設置されたカメラにより撮影された傷病者の状況や、心電図等のデータを動画像として医療機関のタブレット端末へ送信する。
↓
医療機関の指名された医師が必要に応じて動画像を閲覧し、傷病者の容態等を「リアルタイム」に把握することで、救急隊員への適切な指示・指導を行うことや、院内での受入れ体制を迅速に確保することが可能となる。
2. 位置情報共有機能
救急車の位置情報がタブレット端末に表示され、医療機関の医師が随時確認できることで、早期に受入れ準備を進めることができる。
<救急医療システムの活用方法>
● 医師、救急隊員が必要であると判断した場合に、救急医療支援システムを活用する。
● 映像伝送する場合、救急隊員は、傷病者等に説明を行い同意を得る。傷病者等が拒否する場合は、撮影や映像伝送は行わない。傷病者の意識がない、家族がいない等、同意を得る機会がない場合でも、救急隊員が緊急とみなし、映像伝送を行う場合がある。
● 救急医療支援システムを設置する救急車内の見えやすい場所に、利用目的等を明示しており、本システムは、搬送中の傷病者への処置等を医学的に適切に実施するために用いるもので、映像は記録に残さない。
( 横須賀市「「救急医療支援システム」の導入について」」より。)
解決における工夫点
● 各機能の実現方法について、消防局・救急隊員・医師の方にヒアリングを行い、試作とフィードバックを繰り返した。
・実際のオペレーションを想定すると、救急隊員がカメラのアングル調整を行うことは難しいとの意見があり、アングルを医師が遠隔で操作する方式を採用した。
・従来のカメラを搭載したシステムではPCでの操作を前提としていたが、これでは伝送される映像を医師が見るために決まった場所に行かなければならないという問題があった。このため、タブレットやスマートフォンにより機能を実現することにした。
・操作が複雑になると運用が困難になるとの意見があり、提供する機能を絞り単純化し、操作が簡便になるようにした。
事例による成果
■平成 26 年 3 月までの評価運用の結果を踏まえたヒアリングによる評価では、救急車内から実際に映像を発信した救急隊や、病院側でシステムを利用した医師から実例を踏まえた具体的な意見が多数得られた。
● システムによる現場業務への貢献:
・目指していた「医療情報共有(コミュニケーション)の質向上」と「院内準備の効率化」の2点に加えて、現場救急隊における「救急活動時の安心感」などが挙げられた:
1.「コミュニケーションの質向上」:
言葉で伝えにくい情報も映像で自動かつ明確に伝えられる点が有用であった。
・例えば、医師が、同乗者の有無や状況、意識障害やショック、痙攣などの傷病者の状態や、血圧等の表示モニタやAED 画面などを、自身でリアルタイムに選択し確認できるため、救急隊員がこれらを口頭で伝えなくてもよい上、搬送中の映像も伝送することによって、病院収容後の医師への説明が迅速化する点を利点として挙げていた。
・薬のパッケージを映像伝送で提示し薬物名を医師に伝達した例もあった。
・2隊が同時に病院に到着した場合で、どちらが重症かを映像によって判断し、受け入れ緊急度の判断に活用した例があったほか、血圧等の表示モニタを映像で見られたため、心肺停止に至る可能性のあった事案で医師が的確な指導・助言等を行えたことにより、心肺停止を回避し、後遺症もなく社会復帰された事例もあった。
2.「院内準備の効率化」:
・コミュニケーションの質向上によりもたらされる効果に加え、位置情報共有機能により、救急車の来院時刻の予測ができ、院内スタッフの配置や設備の準備を効率的に行えて治療体制の円滑化につながったという意見があった。
3.「現場救急隊における安心感」:
・医師に傷病者や救急活動の状況を映像で確認してもらえることから安心感があるという意見が、実際にシステムを活用した救急隊員からあった。そうした意見交換の中で、例えば、気管挿管実施等の活動では、医師の確認下にて実施することができれば有用であるといった意見も挙げられた。
4.「位置情報の共有機能」:
・位置情報を病院と共有できたのが良いという意見や、他隊の位置を把握できるのが良いといった意見があった。そのほかにも、具体的に活用した事例から硫化水素による事故において、多数傷病者が発生した事案では、救急車とドクターカーの現場での合流(ランデブー)に活用できたとの意見があった。
【今後の展望】
・傷病者の同意を得るプロセスの省力化
・運用を確実にするために、ユースケースを設定し、それに基づいて消防と医療機関の連携訓練
・通信環境による映像のタイムラグの解消
事例の継続性
継続運用中
事例の運用期間
平成 26(2014)年 4 月~継続運用中
参考資料
本事例は、「総務省 消防庁 平成29年 消防の動き」を中心として、以下の資料を参照して編集しています。
※ 以下の資料の参照先は、調査時点でのものです。参照先の構成によっては、リンク切れとなっている場合があります。あらかじめご承知おきください。
■総務省 消防庁
・平成29年 消防の動き
https://www.fdma.go.jp/publication/ugoki/2017/
ー【先進事例紹介】救急隊と病院の情報共有を支援する「ユビキタス救急医療支援システム」を活用した救急活動
https://www.fdma.go.jp/publication/ugoki/items/2902_26.pdf
■横須賀市
・「救急医療支援システム」の導入について 更新日:2019年4月8日 ページID:71200
https://www.city.yokosuka.kanagawa.jp/7427/documents/yubikitasu.html
■YRPユビキタス・ネットワーキング研究所
・救急医療システム
https://www2.ubin.jp/research-development/applied-research/emergency-medical-system/
事例に関する問い合わせ先
消防局救急課
Tel: 046-821-6473
本事例についてのご要望
本ページ掲載事例の、項目の追加・修正・削除等のご要望は地方公共団体DX事例データベースに対するご要望フォームよりお寄せください。