展開地域名: 大分県日田市
解決すべき課題
■大分県日田市は、山に囲まれ、九州最大級の河川の上・中流域にあたる地理的条件から、河川の氾濫による激流によって河川沿の家屋が崩壊したり、土砂崩れによって広範囲の住居が土砂にまみえるような被害が発生している。この 10 年間で 4 度の水害に見舞われ、平成 24 年では 400 棟、平成 29 年では 1200 棟、令和 2 年で 460 棟、令和 5 年では 110 棟を超える住居が被害にあっている。
● これら被害に対応するために罹災証明書を発行してきたが、紙ベースの調査作業、地図に色鉛筆で書き込んだり、資料を表計算ソフトに落とし込んだり等、あらゆる工程で紙での工程が占めており、調査開始から帰庁後の夜間に及ぶ多大な事務作業に対応するなどの結果、職員の疲弊、情報分散、交付の遅延などが発生し効率化の限界を感じていた。このため被害後業務の以下についての効率化は課題であった:
・調査スキル:
被害の調査は災害があった際に、職員がいきなりできるものではないため職員がスキルを習得するのはもちろんだが、応援職員にもスキルの指導が課題であった。また経験やスキルによって、判定にバラつきがでることがあった。
・ 調査道具:
調査にたくさんの紙の資料、デジカメ、計測機器などの道具を諸々もっていくことが負担であった。
・ マネジメント:
日々変わりゆく状況に合わせて応援職員や調査計画をコントロールすること、例えば特に、日々増えゆく申請であったり、なかなか進まない進捗状況を毎夜判断しながら翌日の工程をたてる作業は負担であった。
・ノウハウ継承:
短期間に何度も災害を経験したため、なんとなく経験で乗り越えることはできていたが、災害がないときに、このノウハウは継承されるだろうか、経験職員に頼り切ったような属人的な体制のままでよいのか、といった課題があった。
(ジチタイワークスWEB「罹災証明書交付までの業務をデジタル化し、被災後対応をサポート。」、LODGE「工数・期間を約50%削減!大分県日田市と共同開発した罹災証明迅速化ソリューション(地域DX推進ミートアップ #10)」参照。)
解決の手法
■これまでの大規模豪雨災害で被災した経験から、防災・減災に向けた取組に加えて、被災した市民の速やかな生活再建を支援するため、課題改善・短期間の罹災証明交付に努めてきた。しかし、部分的な改善であり、全体を通した業務改善になっておらず、標準化がなっていなかった。
また、災害対策基本法においても、遅滞することなく「り災証明書」を交付することが定められており、被災者への支援を迅速に進めるための一つの手段として、令和 3 年 11 月に、富士フィルムシステムズサービス ㈱ と共同研究を開始し、令和 5 年 6 月に『住家被害認定調査システム』を全国初で導入するに至った。
(LODGE「工数・期間を約50%削減!大分県日田市と共同開発した罹災証明迅速化ソリューション(地域DX推進ミートアップ #10)」参照。)
【住家被害認定調査システム概要】
●「り災証明書」の交付申請から証明書の作成・交付にかかる一連の事務作業を一元的に管理する『被害調査統合システム』と、タブレット端末を用いて現地調査業務をサポートする『家屋被害判定アプリ』で構成されており、「調査計画策定/体制構築」と「現地調査から判定」までのプロセスを支援する。
<調査計画策定/体制構築>
・申請受付から調査予約:
バラバラな管理となりがちな申請内容や地図情報、調査スケジュールをデジタルで一元化。
・調査計画割り当て:
多大な労力を要する調査スケジューリングと班の割り当てをシステムが瞬時に策定。予約変更や調査遅れにも柔軟に対応可能。
・応援要請:
調査件数や目標期間に応じ、必要な応援職員数をAIが支援。適正かつ合理的な人員調達を早期に実現。
・班編成:
経験、スキル、職員の組み合わせなどの複雑な条件を考慮した班編成作業をシステムが支援。
<現地調査委から判定>
・現地調査準備:
調査票・地図・損壊程度例示など、携帯書類のデータ化により事前準備工数を大幅に削減。
・現地調査:
現地でのタブレット入力により、損害割合算出も自動化。現地で損害度判定が完結し、調査のバラつきも防止。
・データエントリー:
現地での入力データをクラウド経由で即時反映し、リアルタイムでの進捗把握を実現。帰庁後のデータ整理作業が不要に。
(日田市「令和5年7月定例記者会見 ― News Release 」より。)
事例による成果
■令和 5 年 7 月に豪雨災害が発生し、システムを使用して見られた効果:
● 罹災証明業務をシステムで一元化できたことによりスムーズな調査体制を構築できた。
● タブレットによる調査アシストで調査未経験職員も判定可能となり、初動から十分な棟数の調査を実施できた。
● 平成 24 年の豪雨水害では罹災証明発行に 22 日間かかっていたが、令和 5 年では 8 日間で発行できた。
● 労力を大幅に削減できた:
・調査員の退庁時間を 21 時から 18 時に短縮できた。
・従来は 13 名+応援職員で行っていた業務を 10 名で実施できた。
<被害調査統合システムでの具体的な成果>
・今まで紙の申請書を職員が目で確認し、家屋の情報等を手入力していたが、住民基本情報であったり、家屋の情報等予め結び付けているので、このような入力作業がほぼなくなり省力化された。
・大量の被災家屋があった場合、法律的調査をするためにルート方法、班構成と調査家屋数を決める必要があるが、地図の位置関係・職員のスキルを基に AI が班編成や計画を自動生成してくれるため、省力化されたなかで調査を行うことができた。
・調査結果は今まで紙で保存されており、判定の正確さ、バラつきの可能性を検証するのに時間を要したが、このような調査結果も統合システムに取り込まれているため、バラつきであったり、制度を一定に保つ分析にも役立った。
<家屋被害判定アプリでの具体的な成果>
・タブレット一つで調査が可能となったため、膨大な紙資料を持ち運ぶ必要がなくなった。
・従来であったら調査ができるまで数日間の研修が必要で、複数人で 1 件の家屋を調査してみてから1人で作業できるようになるというステップがあった。タブレット上のアプリは、調査手順やがガイドする機能や、何か判定に迷った際にはその場で判定事例や考え方を示す機能があるため、経験のない職員でもすぐに調査を実践できるようになった。
・従来では事前の準備として紙資料を用意できている家屋のみ調査ができる体制であったが、タブレットのアプリから現地の受付であったり先行調査ができるようになっているため、道中の調査で見つけた全壊家屋もその場で調査を行うことが可能となった。
・判定業務作業はデータ送信のみで行ったため、調査後の労働力は大幅に削減した。
(LODGE「工数・期間を約50%削減!大分県日田市と共同開発した罹災証明迅速化ソリューション(地域DX推進ミートアップ #10)」参照。)
● 本取り組みは Digi田甲子園 2023「民間企業・団体部門」で総理大臣賞(優勝)を受賞。
事例の継続性
継続運用中
事例の運用期間
2023(令和 5 )年 6 月~継続運用中
参考資料
本事例は、「日田市 令和5年7月定例記者会見 ― News Release 」を中心として、以下の資料を参照して編集しています。
※ 以下の資料の参照先は、調査時点でのものです。参照先の構成によっては、リンク切れとなっている場合があります。あらかじめご承知おきください。
■日田市
・令和5年7月定例記者会見 ― News Release
https://www.city.hita.oita.jp/material/files/group/1/20230703014.pdf
・り災証明書の手続き 2024年02月01日
https://www.city.hita.oita.jp/soshiki/somubu/zeimuka/shisanzei/zei_hoken/zei/koteishisan/7353.html
・被災住宅の応急修理
https://www.city.hita.oita.jp/material/files/group/31/202307.pdf
■LODGE
・工数・期間を約50%削減!大分県日田市と共同開発した罹災証明迅速化ソリューション(地域DX推進ミートアップ #10)
https://www.youtube.com/watch?v=Awcfjbt7Gkw
■富士フイルムシステムサービス株式会社
・罹災証明迅速化ソリューション
https://www.fujifilm.com/fbss/solution/public/bousai
■Digi田甲子園
・2023結果発表
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/digitaldenen/koshien/kekka/2023/index.html
■デジタル庁
● デジタル実装の優良事例を支えるサービス/システムのカタログ(2024年夏版)
・罹災証明迅速化ソリューション
https://digiden-service-catalog.digital.go.jp/disaster/8658/
■ジチタイワークスWEB
・罹災証明書交付までの業務をデジタル化し、被災後対応をサポート。2022-04-28
https://jichitai.works/article/preview/1077
■読売新聞オンライン
・大雨の罹災証明書、大分県日田市が新システムで迅速交付へ…データ一元管理と判定アプリ 2023/07/14
https://www.yomiuri.co.jp/local/kyushu/news/20230713-OYTNT50180/
■NHK 大分 NEWS WEB
・日田市が開発 り災証明書を迅速発行システム 国の大会で優勝 03月15日
https://www3.nhk.or.jp/lnews/oita/20240315/5070018067.html
関連する図表・動画
● LODGE
・工数・期間を約50%削減!大分県日田市と共同開発した罹災証明迅速化ソリューション(地域DX推進ミートアップ #10)
https://www.youtube.com/watch?v=Awcfjbt7Gkw
事例に関する問い合わせ先
防災・危機管理課 防災・危機管理係
Tel: 0973-22-8363
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