展開地域名: 茨城県つくば市
解決すべき課題
■つくば市は、自動車の交通分担率が約 6 割と自家用車への依存度が高く、渋滞緩和や自動車事故対策に加え、中心市街地の賑わいや回遊性の低下も課題となっている。
また、つくばエクスプレス(TX)沿線では人口が増加しているものの、周辺地域では人口減少や少子高齢化が進んでいることに伴い、高齢者の身体機能の低下等による移動の制約や危険、過疎地域の公共交通の維持についての問題が生じるなど、移動が困難な高齢者や、障がい者が本来受けるべき医療サービスが受けられなくなる可能性もある。
(国土交通省「早期の社会実装を見据えたスマートシティの実証調査(その4)調査報告書【つくばスマートシティ協議会】令和4年3月」、KDDIトビラ「MaaSを医療に活用 高齢者の通院負担軽減を目指すKDDIとつくば市の取り組み」参照。)
解決の手法
■つくば市、茨城県、筑波大学ほか、民間企業など 76 機関(令和 5 年(2023 年)2 月 28 日現在)で構成される「つくばスマートシティ協議会」は、「高齢者や障がい者など誰もが安心・安全・快適に移動できるまち」の実現を目指し、2022 年 1 月 17 日から 2 月 14 日まで(日曜祝日を除いた 24 日間)、病院への通院や受診における交通の利便性向上を目指す「つくば医療MaaS」の実証実験を行った。
● 病院への通院にタクシーを利用したい住民に向けて、市内 6 つの医療機関との行き帰りに利用できる相乗り型のオンデマンドタクシーを運行。
・オンデマンドタクシーの予約には KDDI総合研究所が開発・提供を行ったスマホのアプリを活用。希望する「出発地」「目的地」「日時」「人数」を選択。
・出発地から目的地までの経路は AI が自動で計算。相乗りが発生して複数の乗降場所を経由する場合でも、もっとも効率的な経路を AI が判定する。
● 自動運転システムを搭載したパーソナルモビリティ(一人用の乗り物)による病院内の自動走行(筑波大学、WHILL ㈱、三菱電機 ㈱)、顔認証技術(日本電気 ㈱)の活用による事前受付システムの実証も行われ、通院から受診までの一連の動線をシームレスにつなぐことの実現性が検証された。
(つくば市「つくばスマートシティ協議会」、国土交通省「早期の社会実装を見据えたスマートシティの実証調査(その4)調査報告書【つくばスマートシティ協議会】令和4年3月」、KDDIトビラ「MaaSを医療に活用 高齢者の通院負担軽減を目指すKDDIとつくば市の取り組み」、デジタル行政「【シリーズ 医療MaaS】 茨城県・つくば市「つくば医療MaaS」実証事業[インタビュー]」参照。)
【実証内容】:
[実証1]:
● 住民が本実証において用意する MaaSアプリ(つくばスマート医療送迎アプリ)による予約と、AI を用いた最適な経路選択を行うデマンドタクシーにより、移動が困難な方の通院の利便性向上や、行き先を病院に限定した乗合の促進により、AIデマンドタクシーの公共交通としての可能性を検討。
・位置情報データから、公共交通が必要な地域の割り出しや、適切な目的地設定など、データに基づいた交通政策に反映できるかどうかを検討。
・MaaS アプリは、iOS 及び Android に対応しており、オンデマンドの乗車予約等の基本機能に加え、病院に隣接した店舗で利用可能なクーポン機能を付与した。オンデマンドの乗車予約は、自宅付近と病院間のみを出発地・目的地として選択可能であり、6 日先まで予約可能とするものとした。予約時刻の設定は、「今すぐ」乗車、及び乗車時刻又は降車時刻を指定した予約が選択可能なものとした。また付き添いも含め複数名の乗車予約ができるようにした。
[実証2]:
● 顔認証技術を用いた病院受付等により、病院受診の利便性が向上するかを検討。実施した病院は筑波学園病院。
・顔認証による事前受付や確実な本人確認により、病院の事務負担が軽減し、患者の病院滞在時間の短縮につながるかを検討。
・対象患者の氏名や顔情報を登録し、タクシーに設置するタブレット端末で、患者が乗車時に顔認証で本人確認を実施する。その情報を病院情報システムと連携させることで、通常来院したい際に 再来受付機に並んで受付行為を行う時間を削減する。
・来院後、検査等を実施する場合、検査室等に本人が向かい、受付で本人確認を実施するが、その際に受付に設置のタブレット端末で患者が顔認証で 本人確認を実施することで、医療安全と職員の負荷軽減を目指す。
[実証3]:
● 自動運転パーソナルモビリティを用いて、整形外科に通院する患者の受診負担の軽減や、付添者、医療従事者の負担の軽減について検討。実施した病院は筑波大学附属病院。
・自動運転パーソナルモビリティが走行する際に、病院内に設置したカメラの映像をコンピューターで解析し、安全の確認やより良いルートの選択ができるかを実証。
(つくば市「通院時の利便性向上を目指す「つくば医療MaaS」実証実験を実施します 発信日:令和4年(2022年)1月14日(金)」、国土交通省「早期の社会実装を見据えたスマートシティの実証調査(その4)調査報告書【つくばスマートシティ協議会】令和4年3月 国土交通省 都市局」参照。)
事例による成果
● デマンドタクシーの利用実績について:
・今回の実証実験では、車両 2 台を用いて、1 日あたり 9.42 件の利用、デマンドタクシー利用件数 226 件に対し、相乗り率(相乗りが発生した乗車件数/デマンドタクシー利用件数)が 11.5 %であった。結果に示したとおり、1 日当たりの利用件数の増加に比例し、相乗り率も向上していることから、利用数を増加させることができれば、相乗り率の向上が期待される。
● MaaS アプリについて:
・今回の実証実験では、MaaS アプリによる予約のみを対象とした。高齢者のアプリの利用が難しいのではないかとの想定があったが、結果として、60 歳代以上の利用者数が全体の47%を占めた事から、高齢者にも十分に受容性があったものと考えられる。
・一方で、アプリの操作性に関しては多数のコメントが寄せられており、予約できたことを分かりやすく示す UI や、車両の現在地・到着予定時間などの情報などがあると望ましいという意見があった。
● 店舗クーポンについて:
・今回の実証では、一部の病院併設店舗を対象にクーポン提供の実験を行った。しかしながら、デマンドタクシー利用数の 1/4 程度(57 件程度)の利用を見込んでいたものの、利用数は 17 件に留まった。店舗との調整に時間を要したことから、デマンドタクシー実証の住民周知時期に合わせることができず、周知が十分ではなかったことに起因すると想定される。
● 顔認証について:
・病院外部、具体的には病院へ向かうタクシー車内からの顔認証により、稼働している実際の医療情報システムにおいて、病院受付を確実に行うことができることを実証できた。
・認証率について、目標値は達成することができたが、数件の認証エラーが見られた。マスク着用の上での運用においても問題ないことは確認できた一方で、該当システムへの顔の写し方、視線の固定など、患者自身で運用する際にはエラーが発生する可能性があり、よりユーザーが使いやすいシステムの検討が必要であることが明らかになった。
・新型コロナウィルス感染症拡大の影響等により、疑似患者による調査数は少なくなった。このような中で、使い勝手については極めて高い評価を得られたが、一方で、当初想定していた、「受付待ち時間の改善」については、筑波学園病院では、すでに待ち時間の短縮の取り組みを進められていたこともあり、大きな改善につながらなかった。
・医療従事者 19 名に対するアンケートの結果、当初想定した通り、患者の来院予定が分かることや、再来受付機を通らずに診療科に進めること、本人確認を顔認証システムで行えることに対してメリットを感じる者は多く、想定していた目標値を大きく上回った。
● 自動運転パーソナルモビリティについて:
・自動運転パーソナルモビリティの病院への導入が、医療従事者や病院関係者の作業負担の軽減、患者の施設利用満足度の向上につながること、また、医療従事者によるプッシュサービス(車いすを押すサービス)を減らすことができれば、コロナ禍におけるソーシャルディスタンスの確保につながることが確認できた。
【実証期間中の MaaS アプリの利用に関する主要な統計情報】
● デマンドタクシー利用数: 226 件 (9.42 件/営業日)
※往復の場合は、往路・復路をそれぞれ 1 件として計算。
● デマンドタクシー乗車人数:329 人 (13.7 人/営業日、1.46 人/一乗車)
● 相乗りが発生した乗車件数:26 件 (相乗り発生率 0.115)
※一組で一回の相乗りと数えた場合、相乗り発生回数は 13 回
● デマンドタクシーの予約数: 355 件
※キャンセルや日時変更等で最終的に乗車に至らなかった場合も含めた予約件数
● アプリ DL 数: 269 件 (Android 130 件、iOS 139 件)
※いずれも最大値を確認した日の DL 数
● クーポン利用数: 17 件
● アンケート結果:
アプリ満足度、デマンドタクシー満足度及び有償時の利用意向を把握し、つくば市での実装に見合った料金設定や優先度の高いエリアの選定、及びアプリ仕様の設定検討に活用するため、アンケートを取得した。
・利用者へのアンケート調査の結果、デマンドタクシーが家族負担や移動への不安を軽減させるモビリティとして前向きな評価を多く得られた。
・また、アプリの使い勝手向上により、特に高齢者自身や高齢者世代を親に持つ別居家族への更なる利用意向へつながることもわかった。
・一方、相乗り同乗者を送迎することによる時間の不確定さに対する意見や、目的地や時間拡大の要望も寄せられた。
・有償化した場合のサービス受容性についてヒアリングを行ったところ、病院送迎ならではの意見も多く、恒常的に負担なく利用できる料金設定への希望が多かった。
・また、アプリによる決済完結の期待度が高いこともわかり、今後のサービス仕様に実装する機能としての期待値が高い結果となった。
[アンケート結果詳細]
<満足度の高い理由> ※高評価票数:264
1 位:使いたい時に予約ができた(65 票)
2 位:移動に負担がなくなった(63 票)
3 位:分単位に予約が出来た/家族に送迎を頼まずに済む(50 票) ※同数
<不満度の高い理由> ※不満票数:22
1 位:アプリが使いにくい(10 票)
2 位:電話で予約ができない/待ち時間が長い(3 票) ※同率
【技術の実装可能な時期、実装に向けて残された課題】
・時期について、既に複数の事業者が AI を活用したオンデマンドモビリティの実装を実現しており、技術的にはすぐにでも社会実装が可能である。ただし、効率的な配車を実現するためには、エリアにおける交通渋滞情報等との連携も必要不可欠となる。
・事業継続性の観点においては、需要と供給のバランスが重要であり、タクシーの調達にかかる費用を上回るサービス利用料収入が必要不可欠となる。そのためには、適切な料金設定や需要性のあるエリア選定を行い、ユーザー認知及び利用促進の工夫が必要となる。
・一方で、現在の道路運送法上の規定では、自動認可運賃制度により、運賃幅が設定されているが、タクシー事業者と連携のもとオンデマンドモビリティを実装する際には、時間制運賃ではなく、定額運賃による運行を可能にする、運営主体と事業者の間の取り決めにより運賃を決定できるなどの規制の緩和についても検討が必要ではないか。
・また、ユーザーからのサービス利用料収入のみではなく、商業施設との連携(クーポン)による送客モデルなど、新たな収益源の創出を検討することも事業継続性の観点で重要となる。
・収益性向上の観点から、予約受付センターを最小限の体制とするために、電話ではなくアプリからの予約環境を整備する必要がある。デジタルデバイド解消の観点からも、高齢者がスマートフォンを利用し、本サービスの予約等を簡単に実施できるよう支援する方法(スマホ教室の開催、並びにアプリ利用説明の実施など)も併せて検討する必要がある。
・筑波学園病院に通院する患者 207 名に対してアンケートを行った結果、7 割以上の患者が、顔認証用の顔写真の提供に抵抗感はないと回答した。一方で、3 割弱の患者は抵抗感を示していることから、顔写真の提供に対するリスクイメージよりも利便性が上回るよう、より機能を向上させていく必要がある。
(国土交通省「早期の社会実装を見据えたスマートシティの実証調査(その4)調査報告書【つくばスマートシティ協議会】令和4年3月 国土交通省 都市局」参照。)
事例の継続性
不明
事例の運用期間
2022 年 1 月 17 日~ 2 月 14 日
参考資料
本事例は、「国土交通省 早期の社会実装を見据えたスマートシティの実証調査(その4)調査報告書」を中心として、以下の資料を参照して編集しています。
※ 以下の資料の参照先は、調査時点でのものです。参照先の構成によっては、リンク切れとなっている場合があります。あらかじめご承知おきください。
■国土交通省
・早期の社会実装を見据えたスマートシティの実証調査(その4)調査報告書【つくばスマートシティ協議会】令和4年3月 国土交通省 都市局
https://www.mlit.go.jp/toshi/tosiko/content/001481220.pdf
・スマート・コミュニティ・モビリティ実証実験「つくば医療MaaS」(つくばスマートシティ協議会)
https://www.mlit.go.jp/toshi/tosiko/content/001600526.pdf
・スマート・コミュニティ・モビリティ実証調査(つくば医療MaaS) つくばスマートシティ協議会
https://www.mlit.go.jp/scpf/archives/docs/townmanagement_4th_2_tsukuba.pdf
■つくば市
・つくばスマートシティ協議会 更新日:2022年3月1日
https://www.pref.ibaraki.jp/sangyo/kagaku/kenkyu/r4tsukubasmart.html
ーつくばスマートシティ協議会 会員一覧(令和5年2月28日時点)
https://www.city.tsukuba.lg.jp/material/files/group/17/20230228_member.pdf
・つくばスマートシティ協議会 令和3年度事業報告書
https://www.city.tsukuba.lg.jp/material/files/group/17/R3houkokysyo.pdf
・令和4年(2022 年)6月 24 日 つくばスマートシティ協議会 議案書
https://www.city.tsukuba.lg.jp/material/files/group/17/220715_soukaigiansyo.pdf
・令和5年1月記者会への情報提供資料 更新日:2023年03月01日ページID: 12477
https://www.city.tsukuba.lg.jp/shisei/kouhou/johoteikyo/1019669/12477.html
ー通院時の利便性向上を目指す「つくば医療MaaS」実証実験を実施します 発信日:令和4年(2022年)1月14日(金) 発信元:つくば市 政策イノベーション部 スマートシティ戦略室
https://www.city.tsukuba.lg.jp/material/files/group/3/2021NO167.pdf
ー「つくば医療MaaS」実証実験を実施します 発信日:令和5年(2023年)1月26日(木) 発信元:つくば市 政策イノベーション部 スマートシティ戦略課
https://www.city.tsukuba.lg.jp/material/files/group/177/2023_No148.pdf
ーつくば市内で実施する公共交通の新たな社会サービスの実証実験が国の「先行モデル事業」に選定 発信日:令和元年(2019年) 6月 19日(水) 発信元:つくば市政策イノベーション部科学技術振興課
https://www.city.tsukuba.lg.jp/material/files/group/3/2019NO59.pdf
・つくば医療 MaaS 実証実験の実施について
令和 5 年 1 月 26 日 つくばスマートシティ協議会(茨城県・つくば市)
https://www.pref.ibaraki.jp/somu/hodo/hodo/pressrelease/hodohappyoushiryou/2203/documents/230126kagakugizyutu.pdf
■KDDI
https://www.kddi.com/
・会社概要
https://www.kddi.com/corporate/kddi/profile/overview/
・産官学の連携で推し進める、つくば市のスマートシティ事業 2021 4/16
https://biz.kddi.com/beconnected/feature/2021/210416/
●KDDIトビラ
・MaaSを医療に活用 高齢者の通院負担軽減を目指すKDDIとつくば市の取り組み 2022/03/23
https://time-space.kddi.com/au-kddi/20220323/3284
■日経BP
●ひとまち結び
・第1回 どんな人も「快適なお出かけ」ができるようになる 2022.05.25
https://project.nikkeibp.co.jp/hitomachi/atcl/column/00020/050200005/?P=3
■デジタル行政
・【シリーズ 医療MaaS】 茨城県・つくば市「つくば医療MaaS」実証事業[インタビュー]
https://www.digital-gyosei.com/post/2022-06-21-interview-tsukuba-maas/
■日本経済新聞
・病院までのルート、AIで最適化 茨城・つくば市で実験 2022年1月25日
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOCC2070V0Q2A120C2000000/
■産経新聞
・移動困難者をスムーズに医療機関へ 「つくば医療MaaS」実証実験 2022/1/31
https://www.sankei.com/article/20220131-4SIWPGTO6NIEPGXO4LBSHJZ6DA/
関連する図表・動画
●【つくば市公式】世界のあしたが見えるまち。つくば
・【「つくば医療MaaS」実証実験】
https://www.youtube.com/watch?v=5eQvKUV_VPs
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