宮城県仙台市「福祉・交通事業者の相互補完によるMaaSモデル実現に向けた実証事業」

展開地域名: 宮城県仙台市

分野:
医療
福祉
介護
交通
スマートシティ
経済政策
キーワード:
自動化
業務効率化
コミュニケーションツール
AI
IoT
MaaS

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解決すべき課題

■仙台市は全国平均に比して介護余力少なく、特に泉区は高齢化が進展。起伏の多い丘陵地帯にオールドニュータウンが広がる。

● コミュニティバスはあるが、高低差が多く、バス停まで自身で歩いて行けないために外出を諦める高齢者も多い。(下記南光台地区など)その結果、健康な高齢者の外出機会を奪い、生活の質を維持出来ず、自立や健康を損なう懸念がある。また外出困難な高齢者にとっては、地域コミュニティから孤立し、日常生活に支障を来たす懸念がある。

● 高齢者、特に要支援・要介護者を支える介護施設の運営事業者は、各自が車両を保有し、送迎を行っているが、同一エリアを複数事業者が重複して送迎しているムダがあり、中小の事業者にとっては、車両関連コストやスタッフ事故リスクなどが負担となっており、経営体力を圧迫している。

解決の手法

■介護送迎の最適化とオンデマンド相乗りを統合して運行可能な福祉専用送迎システム、「福祉Mover」を初めて複数事業者間での共同送迎・相乗りに活用、福祉有償運送と地元交通事業者が補完・連携するモデルの構築を目指す取り組みを実施。

● 複数の福祉事業者が持つ車両を活用し、❶ 施設の通所会員向けの「送迎の共同化」と ❷ 要支援・要介護者向けの「オンデマンド相乗り」による外出支援を、一つのシステムで統合し、新たなモビリティサービスを提供することで、法的実現性の確立と事業継続可能性(採算確保に必要な要素の実現度)を検討する。

【具体的な実証事業の検証命題と手法】:

対象者:介護施設 ㈱ ゆらリズム及び ㈱ エムズの通所会員

❶ 送迎の共同化:

・検証命題:複数事業者の車両共同利用による車両稼働率向上と車両数の削減

・手法:システム「福祉Mover」の活用による送迎実績データと稼働車両実績

・実施期間:

 ・運行開始・終了日:2022 年 2 月 3 日~ 3 月 3 日
 ・運行時間・曜日:毎週火曜日・木曜日 朝便を対象
 ・運行台数・回数:計 11 台*計 8 回 (火曜 3 回、木曜 5 回)

❷ オンデマンド相乗り:

・検証命題:有償サービス時の採算性獲得の実現性検証

・手法:実証サービス利用登録者数、利用数実績、及び、利用前/後のヒアリング・アンケート実施

 ・運行開始・終了日:2022 年 1 月 18 日~ 3 月 4 日
 ・運行時間・曜日:月~金曜 (週 5 日) 8:30 - 16:00
 ・運行台数・回数:送迎時以外は 2 台で対応*23 回

解決における工夫点

• 本実証事業の社会実装に向けては、両事業とも現行法上では、福祉事業者間の有償での相互委託は認められておらず、実現可能な選択肢として、各福祉事業者からの送迎業務を受託可能な事業主体の設立を目指すこととした。

• 具体的には、一般社団法人設立と福祉有償運送の許可登録を目指すための準備を行った。

事例による成果

❶【送迎の共同化】


■検証結果:

● 送迎業務のシステム化と共同送迎化により、18.2 % の効率化を実現した。* 木曜朝の迎えの便

● 8 割以上の福祉事業者が送迎に負担と感じており、本事業への参画意向がある事業者は 5 割にのぼり、一定規模の割合で存在する。

● 送迎業務のシステム化~共同送迎に至る検討ステップ・フローを明確にすることが出来た。

● 一般社団法人による送迎受託を前提とした事業性は、成立する可能性が高い。


❷【オンデマンド相乗りサービス】


■検証結果:

● 通所会員の 20 % 近くが利用する可能性が高い。

・ サービス利用者からの満足度は高い。

・ また日頃は(コロナ影響や家族の心配から)外出を控えている高齢者が多いが、日ごろの送迎車両による移動支援には、安心感も含め、ニーズ・期待が高い。

・ 特に、介護認定は軽いが、独居かつ自家用車が無く、外出しないケース人は、こうした移動手段ができれば、外出促進の効果が期待できる。

・ 価格受容性も事後ヒアリングでは、61 % が月額 3,000 円まで、18 % が月額 5,000 円まで支払ってもよいとしており、サービスの実現性が認められる。

・ 本実証で通所会員の 17%(200 名中 34 名)の利用登録を達成。今後のサービス認知・浸透により 20 %は十分達成可能との見通しが立った。

■ 利用者の評価:

オンデマンド外出支援の利用後の感想(自由記述)

・ 気分転換ができた。友達と行けたのが良かった。夢のようだった。

・ いつも利用しているデイのスタッフが来てくれて安心。

・ 体操、歌などに参加。久しい友人に会うことができた。出かけたくても出かけられないもどかしさから解放された。一度利用したらまた出かけたいという気持ちになった。

● 実際にサービスを利用した主な行先・目的実際の利用者の利用目的でも、通院以外の買い物、娯楽、食事等が半数以上を占め、多様な目的の外出(楽しい外出を含む)に寄与しているといえる。

・サービスを利用した主な行先・目的

 通院 45 %
 買い物 18 %
 娯楽・イベント 18 %
 食事・外食 9 %
 友人・知人に会う 9 %

● 総合満足度では利用者全員が「非常に満足」「やや満足」以上と高評価であった。
項目別では、ドライバーの対応への評価が高く、待ち時間・予約のしやすさがそれに続くスコアであった。

● 本サービスに対する価格受容性 事前/事後:

・事前調査では「負担ゼロならば乗る」が 3 割程度あった。一方、実証後(利用登録をした人)では「負担ゼロならば乗る」が減り、1 回あたり利用料なら 300 円 と 500 円が 4 割ずつ。月額会費では 3000 円までが 6 割、5000 円までが 2 割となった。

・利用登録まで進む、実際に利用してもらう等、価値を認める顧客が地域内に一定数確保できれば、オンデマンド外出支援を事業として実現できる可能性が明らかになった。


【地元交通事業者との業務連携による事業モデルの可能性】

本実証を通じて得られた知見と事業に対するニーズを踏まえて、今後の「送迎の共同化」と「オンデマンド相乗りサービス」の社会実装に向けた展開を想定し、タクシー事業者へのドライバー業務の委託により、持続可能な事業モデルとなりうるか、収益シミュレーションを実施した。 いくつかの一定条件をクリアすることで、タクシー事業者にとっても新たな収益につながる事業モデルとなる可能性が確認できた。

事例が与えた影響

【運用についての課題と対策】

■本実証事業の「送迎の共同化」及び「オンデマンド外出支援サービス」のどちらも、社会実装を実現するためには、現在の法制度下では、福祉有償運送としての登録が必要であり、そのためには地元交通事業者を含めた運営協議会での合意が前提となる。

● しかしながら、高齢者・障碍者の移動・外出支援などについては、福祉・介護と交通双方の領域に跨るテーマであり、地元交通事業者と必ずしも最初から課題認識や利害が一致するものではない。

● したがって、自治体を含めた関係者間で共通理解の確立とに向け、一定年月に亘る地道な取組みが必要となる。その際、以下の視点が重要となることを今回の実証を通じて改めて再認識した。

1)事業主体となる社福協会や介護事業者の主体的なリーダーシップ

2)自治体の積極的な課題意識の共有と関わり(福祉・交通部局間での福祉/交通課題の認識や課題解決の相互共有)

3)地元交通事業者との信頼関係の構築と共通理解を通じた合意形成

① 地元交通事業者と介護事業者間の棲み分け

・要支援・要介護者・障碍者など通常の移動・外出にあたって、介護士的なケアを必要とする特定層であること

・上記に限定した”事前登録による特定会員向けサービス”であり、不特定多数向けの公共交通とは性格・目的が異なること

② 地元交通事業者の収益を圧迫する取組みではないこと:

・現在あまり一人では外出出来ていない層に外出を促す行動変容も含めた取組みであること(交通事業者がカバーしづらい地域)

③ 業務の委託を含め、双方の収益に繋がる取組みと出来る可能性:

・介護送迎など移動需要を取りまとめ、ドライバー業務委託など、交通事業者に新たな収益機会を提供できる可能性が拡がる

④ 共同で取り組むことで、地域の新たな移動需要を創造していける可能性が拡がること:

・高齢者が積極的に外出出来るようになれば、結果的に地域の消費活性化や公共交通手段の利用にも繋がっていくこと

• 地域特性によって、上記項目についての課題認識、協議・検討が必要なポイントが異なってくると想定されることから、自治体・地元交通事業者などとのコミュニケ―ションにあたっては、以下の事実・データなども予め共通認識を持ちながら、進める必要がある。

① 地域の地理的状況や人口特性(例:山間部・過疎地、都市部、広さや人口密集度、高齢化率など)

② 地域の介護福祉事情(要支援・要介護者人口、通所型介護施設・事業者数、介護事業者側の課題意識、自治体と介護事業者の取組

③ 地域の交通事情(これまでの自治体の交通施策、公共交通の運行状況・利用状況、自治体と交通事業者のこれまでの取組みなど)

事例の継続性

不明

事例の運用期間

2022 年 1 月~3 月

参考資料

本事例は、「国土交通省 産総研 参考資料 1 地域新MaaS創出推進事業での取組(14地域分)」を中心として、以下の資料を参照して編集しています。
※ 以下の資料の参照先は、調査時点でのものです。参照先の構成によっては、リンク切れとなっている場合があります。あらかじめご承知おきください。

■国土交通省

・産総研 参考資料 1 地域新MaaS創出推進事業での取組(14地域分)
https://www.meti.go.jp/shingikai/mono_info_service/smart_mobility_challenge/pdf/20220405_01_s01.pdf

■スマートシティ官民連携プラットフォーム
https://www.mlit.go.jp/scpf/index.html 

・スマートシティプロジェクト
https://www.mlit.go.jp/scpf/projects/index.html

・福祉・交通事業者の相互補完によるMaaSモデル実現に向けた実証事業(宮城県 仙台市)
https://www.mlit.go.jp/scpf/projects/docs/newmaas_meti04_sendai.pdf

■仙台市

・みんなで育てる地域交通乗り乗り事業について 2022年10月26日更新→更新日:2023年4月5日(2023/6/1現在)
https://www.city.sendai.jp/kokyo/norinori.html

 ー地域交通とは
https://youtu.be/up8XBl0RAFo

 ー支援内容
https://youtu.be/kw2e5gIej78

 ー本格運行までの道のり
https://youtu.be/JcPw0vpI-5s

 ー地域交通の取り組み事例
https://youtu.be/X0YCNViuXxo

・みんなで育てる地域交通乗り乗り事業リーフレット
https://www.city.sendai.jp/kokyo/documents/minnnadesodaterutiikikoutuunorinorijigyou.pdf(2023/6/1現在非表示)

・みんなで育てる地域交通乗り乗り事業リーフレット(令和 5 年 3 月第 7 版)
https://www.city.sendai.jp/kokyo/documents/norinorir5.pdf

・2020.12.23 地域課題の解決に資するモビリティデザイン-仙台MaaSに求められる視点
https://www.city.sendai.jp/project/shise/gaiyo/soshiki/sesakukyoku/link/documents/kouensiryou.pdf

■SENDAI FWBC

・#01 福祉車両が地域活性化のカギに?! 新しい移動のかたち「福祉MaaS」 2022/06/29 
https://sendai.fwbc.jp/magazine/01/

■MONET Technologies

・企業情報
https://www.monet-technologies.com/company

・複数の福祉事業者が送迎用車両を共同利用して、遊休時の車両で高齢者の外出支援などを行う実証実験を開始~東北初の取り組みとして、他地区へ応用可能なモデルの構築を目指して~ 2020年11月27日
https://www.monet-technologies.com/news/press/2020/20201127_01

■産能研
https://www.aist.go.jp/

■野村グループ

・Nomura Healthcare Note 2022 January
デイサービス送迎車の相乗りによる交通弱者支援サービス 『福祉Mover』
https://www.nomuraholdings.com/nhs-a/services/publication/data/healthcare_180.pdf

本事例についてのご要望

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