展開地域名: 長野県伊那市
解決すべき課題
● 伊那市は長野県で 3 番目に広い面積で、その広い地域に集落が点在している。高齢者などに医療を提供するために医療機関では訪問診療を行うが、1 軒につき片道で 30 分~ 1 時間かかることもあり、時間と労力を費やす。
● 医師不足も顕著で、伊那市が属する二次医療圏の上伊那医療圏は、医師の偏在を表した「医師偏在指標」では、全国 335 の二次医療圏中で 270 番目と低い水準。病院は外来、入院、在宅という3つの診療の選択肢があるが、医師不足により医師が積極的に往診を行うことが難しくなった(ソフトバンク「医療MaaS 「医師の乗らない移動診療車」が挑む地域医療問題 | 長野県伊那市実証事業 現地取材」より)。
● 市民も高齢化しており、免許返納する方もおり、移動困難な交通弱者も増加している。患者さんが外来診療を受ける場合にもアクセシビリティに課題があった。
解決の手法
■診察のための専用車両が看護師と一緒に患者宅へ訪問して、看護師のサポートのもと、車内からビデオ通話を繋ぎ医師が診察を行うというオンライン診療を実施するモバイルクリニック事業に取り組む。
市は、MONET Technologies ㈱、㈱ フィリップス・ジャパンとの協業により、医療 × MaaS を実現するための、医療機器などを搭載した車両である「INA ヘルスモビリティ」を開発。同各社の協力により、「INAヘルスモビリティ」を活用した実証実験を 2019 年 12 月から開始。2020 年 6 月から実際の保険診療、2021 年 2 月からは遠隔服薬指導への適用を開始し、同年 4 月より本格運用。
(長野県「遠隔医療によるモバイルクリニック事業について 伊那市企画部」、伊那谷ネット「モバイルクリニック 4月から本格運用」、伊那市「日本を支えるモデル都市の構築を目指して」参照。)
●「INA ヘルスモビリティ」に予約システムを導入することで、一台の車をモバイルクリニック事業に参画している複数の医療機関が活用できる仕組み。2022 年 7 月 1 日時点は、10 医療機関がこの取組に参画している。
(羽田土曜会「長野県伊那市の最先端医療 前編_羽田土曜会(動画)」、伊那市「モバイルクリニック モバイルクリニック事業とは」参照。)
● サービスの利用方法:
まず医師から患者へ本サービスについて丁寧に説明をする。モバイル事業のオンライン診療が利用可能と判断し、患者の同意を得られた場合には、医師と患者が時間を合わせ、病院側から車両予約を行う。
予約をした診療日に診療車両「INAヘルスモビリティ」が病院に行き、看護師を乗せて患者を訪問する流れ。保険適用のオンライン診療は定期的に体面で診察を受けることが必要なため、支払いは来院時にまとめて支払う。
(羽田土曜会「長野県伊那市の最先端医療 前編_羽田土曜会(動画)」、伊那市「モバイルクリニック モバイルクリニック事業とは」参照。)
● 車両の設備と機能:
・車内には、血圧計や体温計、心電図モニターや AED、そして日本ではまだ珍しい遠隔聴診器などが搭載されている。令和 4 年 7 月からオンライン診療のためにモバイルエコーを搭載したことで妊婦健診を行うことが可能になった(伊那市「モバイルクリニックによる妊婦健診」より)。
・ 医師、看護師、ケアマネージャーなどの他業種間で情報の連携を行うことが可能な多職種連携クラウドを導入しており、ネットワーク上で、患者の情報を共有できる。また、薬剤師にも共有され、服薬指導など患者に行うことが可能(羽田土曜会「長野県伊那市の最先端医療 前編_羽田土曜会(動画)」より)。
・ 車両の運行は、医療機関と患者宅の位置情報や、移動時間、診察時間などの入力情報から、最適な経路と出発時間などを計算するシステムによって管理されている。
解決における工夫点
● 高齢者など通信機器の操作に慣れていない方でも看護師が操作することでオンライン診療を受けることができ、医師側も看護師に対して指示をすることが出来るため、患者のみで受診する一般的なオンライン診療よりも安全で質の高い診察を行うことが可能。
(MONET Technologies株式会社「導入事例 【長野県伊那市】医師の乗らない移動診療車で医療サービスが患者のもとへ。MONET初の医療MaaS」参照。)
● 触診は看護師の方が代替することができ、遠隔聴診器で聴診も可能。また、照明やカメラの角度も看護師がサポートする。
事例による成果
● 車内というプライバシーが守られている環境で、オンライン診療のガイドラインに則った手順を実現しており、医師側からは診察の水準は対面に近いという評価があった。
● 患者側からは「移動が楽になった」という声があった。また、これまでの外来の診察では、病院で長時間待ち、実際の診察はすぐ終わってしまうなど、待ち時間も課題となっていが、こうした点が解消されたことも喜んでいただいた。
● 外来で受診をする高齢の患者には、ほとんどの場合家族が付き添っている。これまで家族は短い診察のために往復で何時間も費やすことになり、仕事との両立に支障が生じることも少なくなかった。本サービスを使用している患者の家族はそうした苦労が大幅に軽減され、買い物や仕事をすることができるようになった。
● 運行実施累積回数(2022 年 9 月末現在):
・オンライン診療: 301 回
・オンライン服薬指導: 16 回
・オンライン妊産婦健診: 6 回
(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)「⾧野県伊那市 遠隔医療によるモバイルクリニック事業」より。)
● 本取り組みは 2022 年11 月に「MCPCアワード2022」において、【遠隔医療によるモバイルクリニック事業】としてユーザー部門モバイルパブリック賞を受賞した。
(伊那市「遠隔医療によるモバイルクリニックがMCPCアワード2022を受賞」、モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)「MCPCアワード」参照。)
【MCPCアワード】:
モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)は 2003 年以降、「MCPC award」 を開催し、 モバイルシステムの導入により IoT/AI 分野での「業務効率化」、「業績向上」、「顧客満足度向上」、「社会貢献の推進」、「先進的なモバイル活用」等の成果を上げた事例を顕彰し、モバイルソリューション、IoT/AI システムの更なる普及促進を図っている。
(モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)「MCPCアワード」より。)
事例の継続性
継続運用中
事例の運用期間
2021 年 4 月~継続運用中
参考資料
本事例は、「デジタル行政 まちを走る診療車、医療を変える-長野県伊那市「モバイルクリニック事業」[インタビュー] 」を中心として、以下の資料を参照して編集しています。
※ 以下の資料の参照先は、調査時点でのものです。参照先の構成によっては、リンク切れとなっている場合があります。あらかじめご承知おきください。
■デジタル行政
・まちを走る診療車、医療を変える-長野県伊那市「モバイルクリニック事業」[インタビュー] 2021.8.24
https://www.digital-gyosei.com/post/interview-ina-mobileclinic/
■伊那市
・モバイルクリニック モバイルクリニック事業とは ページID:872531359 2022年6月28日更新
https://www.inacity.jp/shisei/inashiseisakusesaku/shinsangyougijutu/mobileclinic/mobileclinicmain.html
・モバイルクリニック
https://www.inacity.jp/shisei/inashiseisakusesaku/shinsangyougijutu/mobileclinic/index.html
・モバイルクリニック事業
https://ptl.iij-renrakucho.jp/ina/
・モバイルクリニックによる妊婦健診 ページID:540330091 2022年7月8日更新
https://www.inacity.jp/shisei/inashiseisakusesaku/shinsangyougijutu/mobileclinic/maternitymobileuse.html
・BSテレ東「羽田土曜会~ニッポンを元気にする地域の星~」モバイルクリニックの取り組みが特集されました(2月13日) ページID:696544904 2021年2月13日更新
https://www.inacity.jp/shinoshokai/citypromotion/030213haneda.html
・遠隔医療によるモバイルクリニックがMCPCアワード2022を受賞 ページID:217574274
2022年12月5日更新
https://www.inacity.jp/shisei/inashiseisakusesaku/shinsangyougijutu/mobileclinic/mobileclinicmcpc2022.html
・企画政策課
https://www.inacity.jp/shisei/shinososhiki_busho/kikakubu/kikakuka.html
・伊那市公式動画チャンネル
伊那市新産業技術PR映像「モバイルクリニック編」
https://www.youtube.com/watch?v=RTwNFRuDAiw
・日本を支えるモデル都市の構築を目指して ページID:471537854 2021年6月7日更新
https://www.inacity.jp/shichoshitsu/shicho_kiko-kowa/sityoukoramu_moderu.html
・伊那市では新産業技術を活用した事業を推進しています ページID:536746577 更新日:2020年12月8日
https://www.inacity.jp/shisei/inashiseisakusesaku/shinsangyougijutu/174kija202012081.html
■羽田土曜会
・長野県伊那市の最先端医療 前編_羽田土曜会
https://www.youtube.com/watch?v=VrG_Iof_enQ
■長野県
・遠隔医療によるモバイルクリニック事業について 伊那市企画部
https://www.pref.nagano.lg.jp/inaho/documents/5.pdf
■MONET Technologies株式会社
・導入事例
【長野県伊那市】医師の乗らない移動診療車で医療サービスが患者のもとへ。MONET初の医療MaaS
https://www.monet-technologies.com/case/010
■ちいモビ
https://chimobi-toyota-mf.jp/
・遠隔医療による「モバイルクリニック」事業
http://min-mobi.jp/document/support/2020/detail_14.pdf
■ソフトバンク
・医療MaaS 「医師の乗らない移動診療車」が挑む地域医療問題 | 長野県伊那市実証事業 現地取材 2020年3月10日掲載
https://www.softbank.jp/biz/blog/business/articles/202003/medical-maas/
■モバイルコンピューティング推進コンソーシアム(MCPC)
・MCPCアワード
https://www.mcpc-jp.org/news/award.html#tab02
ー⾧野県伊那市 遠隔医療によるモバイルクリニック事業
https://www.mcpc-jp.org/award2021/pdf/2022_03.pdf
■伊那谷ネット
・モバイルクリニック 4月から本格運用 2021年3月30日(火)
https://ina-dani.net/topics/detail/?id=57788
■日経XTECH
・最先端を行く伊那市のDX、MaaSで診察する「モバイルクリニック」 2021.12.28
https://active.nikkeibp.co.jp/atcl/act/19/00340/122100002/
■全国郷土紙連合
・モバイルクリニック本格運行へ 長野県伊那市 2021.03.31 長野日報社
http://kyodoshi.com/article/8883
■レスポンス
・“医療系MaaS”伊那市とモネの遠隔医療「モバイルクリニック」とは…伊那市長 白鳥孝氏[インタビュー] 2019年11月25日(月)
https://response.jp/article/2019/11/25/329129.html
関連する図表・動画
● 伊那市公式動画チャンネル
・伊那市新産業技術PR映像「モバイルクリニック編」
https://www.youtube.com/watch?v=RTwNFRuDAiw
事例に関する問い合わせ先
伊那市企画部企画政策課
Tel: 0265-78-4111(内線2141)
E-mail: kij@inacity.jp
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